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伊藤詩織さんに関する『ル・モンド』紙の記事を訳してみました。

◯伊藤詩織さんに関する『ル・モンド』紙の記事を訳してみました。

 

伊藤詩織さんに関する『ル・モンド』紙の記事を訳してみました。2017年10月30日の記事です。

元記事:Philippe Mesmer, "Le combat de Shiori Ito, agressée sexuellement dans un Japon indifferent", Le Monde, 30.10.2017

元の記事では、人名への言及の際、フルネームは敬称略、苗字あるいは下の名前のみの場合は敬称付きとなっていますが、日本語としては不自然な印象を与えるのですべてに敬称を付けました。

誤訳がありましたら、忌憚なくご教示下さい。警察・司法関係の用語にはやや自信がありません。

* * *

伊藤詩織の戦い 無関心な日本で性的暴行を受けて

女性ジャーナリストが、レイプ被害を受けた後、宣戦布告する一冊の本を著した。彼女は提訴したにもかかわらず、加害者と目される人物が司法の判断を受けることはなかった。

フィリップ・メスメール(東京特派員)

日本は#MeTooの瞬間を経験しようとしているのだろうか? アメリカ人女優アリッサ・ミラノさんが、セクシャル・ハラスメントや性的暴行の被害者となった女性たちに「問題の広がりを知らせる」ことを促すために考え出したハッシュタグだ。ツイッター上でこれを取り上げる日本人もいるが、動きは限定的なものにとどまっており、日本のメディアにおけるハーヴェイ・ワインスタイン事件の取り上げ方と全く同じだ。この事件をきっかけに、ミラノさんがハッシュタグなどを思いつき、イタリア人女優アーシア・アルジェントさんが性的暴行に対する困難な非難のなか身を投じることにもなった。

しかしながら、日本は日本自身の悲劇から免れることはできない。そして、勇気を出して声を上げる被害者は極めて少ない。フリージャーナリストの伊藤詩織さんは、特に「性的暴行の被害者に敵対的に機能する法的社会的システム」の改善を訴えるために、それを実行することを選んだ。被害当事者として、彼女は、性的暴行後の宣戦布告の本『Black Box』(文芸春秋、未仏訳)を書くことを選んだ。

「そんなことをしたら、あなたのキャリアに傷が付く」

10月24日、彼女は東京の日本外国人記者クラブ(FCCJ)で記者会見を行った。元TBS記者で、同局元ワシントン支局長、安倍晋三首相とも親しく、彼の伝記の著者でもある山口敬之氏が、夕食をとったあと東京のシェラトン都ホテルで意識を失った状態の彼女を暴行した2015年4月3日の悲劇的な夜に戻る機会となった。

提訴することを決心した詩織さんは、警察の躊躇に直面する。警察は、彼女の行為をやめるよう説得しようとする。「この手の事件の届け出は度たびあるが、これらの事件の捜査は難しい」と複数の警察官が彼女にはっきり言った。あるいは「そんなことをしたら、あなたのキャリアに傷が付く」とも。

彼女はやり通し、ついに捜査が開始される。集められた証拠、ビデオの録画、DNAサンプルによって、逮捕状を取得することはできるものの、警察官が山口氏逮捕の手はずを整えたいたその日に、逮捕の実行に介入する命令が下される。

『週刊新潮』によると、当時の警視庁刑事部長で現在は組織犯罪対策部長の中村格氏によって命令は下された。菅義偉内閣官房長官の秘書官も務めたことのある、安倍氏とも近しい人物として知られる有力者である中村氏は、『週刊新潮』によると、逮捕を実行するなという命令を受けたことは認めたが、政治権力の介入は否定した。

提訴する被害者はわずか4%

伊藤詩織さんは起訴したが、失敗に終わり、9月に不起訴となった。山口氏は常に、「決して違法行為は行っていない」、中村格氏のことは知らないと断言していた。この件は今や法的手段という形を取り、彼女の名誉は「いくつかのメディアによるこの事件の扱いによって深刻な影響を受けている」。

「レイプの被害者になったことで、この社会では被害者の声を聞いてもらうことがいかに難しいかがわかりました」と詩織さんは明言する。彼女はさらに、もし彼女がジャーナリストじゃなかったらおそらく断念していただろうということも知っている。

彼女が公表するという選択をしたことで、日本における性的暴行の扱いがもつ問題が再燃した。このような事実を明るみにするという行為は、日本では非常に傷となることなので、わずか4%の被害者しか提訴しない、と『性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』の著者である弁護士の田中嘉寿子さんは嘆く。現在入手可能な最新の数字である、法務省の2012年の統計では、5年間で起きた性的暴行のうち、わずか18.5%しか警察に被害届が出されていない。逮捕された場合でも、53%の事件で被告人は罪を免れている。

3月に、複数の男性が薬を飲ませて2011年に起こしたあるレイプ事件の被害者女性が勝訴した。しかし、彼女の刑事告訴は棄却されたため、民事訴訟を起こさなければならなかった。

小さな勝利

伊藤さんは小さな勝利をつかんだ。5月の末に自身の被害を初めて公表したことで、ツイッターアカウント @uenshiori(伊藤詩織さんをすごく応援する会)が作られるきっかけとなり、彼女が標的となった攻撃を多少なりとも和らげることになった。また間接的には、国会審議終盤の6月18日に可決された、1907年以来初めてとなる刑法の性犯罪に関する条文の改正を加速させた。

別の団体や個人——13歳の時に父親から性的暴行を受けた山本潤さんも含まれている——の支持を受けた新しい条文は今後、捜査を求めるために被害者自身が告訴する必要がなくなり、これを第三者が行えるようになる。そして、適用可能な刑罰が、改正前の3年から今後は5年となる。

不幸なことに、被害者の側が必ず、攻撃や圧力や脅迫や暴行があらゆる種類の抵抗を難しくしたという証拠を提出しなければならない、と伊藤さんは嘆く。彼女によれば「問題なのは、スウェーデンで行われた調査によるとレイプ被害者のおよそ70%が体が動かない状態に陥る」。これは、危険を前にして全身が固まってしまう防御行動だ。

新しい法律には、加害者のための更生プログラムに関する更なる見通しは全くない。「もし私たちがこの問題に対して更なる認識を持つことができれば、あと110年待たなくても条文を改正できるかもしれない」と伊藤さんは期待している。

※当ブログ内の関連エントリー:

『ル・モンド』紙の『この世界の片隅に』評を訳してみました。

翻 訳:仏ル・モンド紙「福島:日本の司法、反原発運動家を訴追、東電を無罪放免」:"Fukushima : la justice japonaise poursuit les antinucléaires et blanchit Tepco", Le Monde, 12 septembre 2013

ル・モンド紙、震災と原子力ロビーに関する記事を翻訳してみました:「福島、罪深き沈黙」 "Fukushima, silences coupables", Le Monde, 26 Mars 2011


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