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『リベラシオン』紙の『この世界の片隅に』評を訳してみました。

◯『リベラシオン』紙の『この世界の片隅に』評を訳してみました。

 

『リベラシオン』紙の『この世界の片隅に』評を訳してみました。

元記事:Marius Chapuis, « «Dans un recoin de ce monde», le songe d’une vie gâchée », Liberation.fr, 5 septembre 2017.

誤訳がありましたら、忌憚なくご教示下さい。

* * *

『この世界の片隅に』:台無しにされた人生の夢

モーリス・シャピュイ

このすばらしいアニメーション映画で、片渕須直は、戦時下日本における夢想家とは何かを問うている。

細心の注意を払って町や建物や時代やそこに生きる人々の仕種を忠実に再現している『この世界の片隅に』は、単なる自然主義の名作映画に見えるかもしれない。しかし、この映画は、それ以上にはるかに野心的な映画である。もちろん、百貨店のひとつひとつの店構えの細部は素晴らしく、片渕須直監督は、あのリアリズムに到達するために資料を何箱も何箱もひっくり返した。しかし、このことによって忘れてしまうかもしれないが、この映画がとりわけ人の心を打つ理由は、映画を貫き、映画に命を与え、同じように若いすずの心を揺さぶった情熱的な疑問である:夢が何かの役に立つのか、兵器の音が轟く中で想像力に何の価値があるのか?

ゆえに、『この世界の片隅に』は、優しく若い男性と思春期の終わりに結婚し、呉の港町の義理の家族のもとに嫁ぐ、繊細なすずの運命に焦点を当てている。その地には、大日本帝国が誇る戦艦大和が停泊している。1944年夏のことである。かくして、彼女はそこから遠くない広島にいる家族のもとを離れる。礼儀正しく、穏やかで、不器用なすずは、スケッチブックを手に散歩したり、天井を見て思いにふけるのが好きだったが、その後は、(未来の)家族の期待に応じなければならなくなる。着物を縫ったり食料不足のなか食事の支度をすることのできる、責任ある主婦の役割を担うことである。戦闘はまだ遠くにあるが、爆音や、返事のない手紙や、配給は、戦闘を必ずしも遠くに押し留めておくことができないことを示している。ひとつ確かなことがある。そのような時代がまさに夢想家を生み出すということである。

不満も叫び声もなく展開する個人的な戦いを通して、やさしくのんびりしたこの映画は、息をのむ瞬間とは無縁の生活が過ぎてゆくのをとらえている。片渕は、登場人物に語らせる代わりに、海苔を摘んだり、豆を煎ったり、米を膨らませたりする仕種に語らせることに時間を割いている。ただしそれは、戦争の開始が告げられ、丘のまわりにアメリカの爆撃機が表れるまでのことである。最初の爆弾の雨が降り、緑や青や赤い爆発で空が震えるとき、すずは、そんな恐ろしい美しさに身を固くしながらこう呟く。「ここに絵の具があれば……」。

この映画の素晴らしさは、戦時中の具体的な戦争の戦争が行われている場所を見事に見せると同時にありのままに見せる手法にある。オープニング・クレジットで、片渕は、日本のアニメーション映画ではこの上なくおなじみのモチーフである雲を見せている。「たいてい、空と雲は自由の象徴です。しかし、あの場面では、地面から見た雲です」と監督は説明する。「これは、例えば宮﨑監督の映画の雲の場面とは根本的に違います。雲は奪われた願望の対象なのです。すずさんは地に縛られていて、彼女は雲に手が届かないし、目をそらすこともできないことが解ります。『この世界の片隅に』は、空が解放の象徴として登場するすべての日本映画へのアンチテーゼです」。空が広島に暮らす人びとを裏切ったあの8月の午後が否応なく物語る思いである。

※元の記事の記述:"cet après-midi d’août où le ciel a trahi les habitants d’Hiroshima"

※当ブログ内の関連エントリー:

ロサンゼルス・タイムズ紙のケネス・トゥーランによる『この世界の片隅に』評を訳してみた。

『ELLE』誌フランス版の『この世界の片隅に』のレヴューを訳してみました。

『ル・モンド』紙の『この世界の片隅に』評を訳してみました。

『リベラシオン』紙の『この世界の片隅に』片渕須直監督のインタビューを訳してみました。

『ル・フィガロ』紙の『この世界の片隅に』片渕須直監督のインタビューを訳してみました。

 


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