青木理「集団的自衛権の根拠となるのか? 砂川判決を考える」、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2015年6月22日(月)15:30-17:46)
○青木理「集団的自衛権の根拠となるのか? 砂川判決を考える」、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2015年6月22日(月)15:30-17:46)
「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2015年6月22日(月)15:30-17:46)の「デイキャッチャーズボイス」のコーナーで、ジャーナリストの青木理が、「砂川判決」が集団的自衛権公使容認の根拠になるか論じていた。
前半は、訴訟過程や判決に関する客観的で簡潔ななまとめ、後半は、「砂川判決」成立の背後にあった、日本政府・アメリカ政府・検察・司法の動きと青木の意見が展開される。
以下、書き起こし。
適宜、ウェブ上で閲覧できる関連資料も紹介。
「砂川判決」は集団的自衛権公使容認の根拠にならない
青木理 [砂川判決が]集団的自衛権の根拠になるかって話ですけどね、[……]要するに、ならないんですよ。
つまりどういうことかって言うと、そもそも、最高裁の「砂川判決」ってのは1959年に言い渡されてるんですけど、これは駐留米軍、在日米軍基地を初めとする駐留米軍の合憲性ってのが焦点になったもので、そのとき集団的自衛権なんて話題にもなってない、争点にも論点にもなってない、なるわけがないっていう小林節[慶応義塾大学名誉教授]先生の話で、もうこれは明快に出ちゃってる。
ならないんですけれども、今日僕は、もう少し踏み込んだ話をちょっと考えてみたいんですけど。
砂川判決の概要
青木理 この砂川判決っていうのはそもそもどういうものだったかって言うとね、これは1957年の出来事なんですけど、アメリカ軍の立川に米軍基地を拡張しようじゃないかっていう計画があって、「それは許せん」って言って反対運動が起きた。で、その反対運動が起きて、デモをしたんですね。そん時にデモ隊が、当時の立川基地の立入禁止の看板をぶっ壊して中に入ったんだと、米軍基地内に入ったということで、デモを先導した学生とか7人が、日米安保条約に基づく刑事特別法違反罪っていうことで起訴されたんですね。警察が起訴したわけです。
○日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法(総務省法令データ提供システム)
そしたら、一審の伊達秋雄裁判長なんですけど、これが1959年の3月ですね、駐留米軍の存在は憲法の前文と9条に違反しとるということで違憲であって、その上で当然ながら7人全員は無罪であると。こういう判決を言い渡した。
○日本国憲法(総務省法令データ提供システム)
○砂川事件の第1審判決(伊達判決) (データベース『世界と日本』日本 東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室)
○伊達判決を生かす会 - 伊達判決 判決の要旨
荒川強啓 東京地裁で?
青木 東京地裁で。一審ですね。で、これはまぁ、日本政府もそうだけど、アメリカ政府もビックリ仰天だったんでしょう、おそらく。それはまぁ、そうですね。その通りになっちゃったら、駐留米軍はもちろん、その在日米軍基地はもちろん、それから59年ですから、その翌年にまさに安保改定ってのを控えてたわけですから、日米安保条約すら否定されかねないわけですよ。だからビックリして、「どうしよう? どうしよう?」ということになったっていうのは、もちろん当然なんだけれども。
それで、検察は「跳躍上告」っていう手続きを取ったわけですね。[……]普通は一審の東京地裁で判決が出たら、検察側は不服だったら高裁に控訴するんです。それでも不満だったら最高裁に上告する。それは、原告側もそうなんですけど。
特別な場合にはいきなり跳躍上告ができるってことになってたんで、検察は一審判決を受けて最高裁に跳躍上告をする。で、上告を受けた最高裁が、「これは違憲じゃないんだ」と一審判決を差し戻して、まぁ今で言うこのいわゆる「砂川判決」っていうのができたんですね。
これ簡単に言うと、「憲法9条は自衛権を否定しておらず、他国の安全保障を求めることまでは禁じていない」と。で、「外国の軍隊は憲法9条2項が禁じる「戦力」に該らない」と。「安保条約は高度な政治性をもってるから、一見極めて明白に違憲・無効とは言えず、司法審査になじまない」。先週、小林[節]先生も話した「統治行為論」と言って、つまり、「政府がキチンと決めた統治行為に関することはちょっと裁判では判断できませんよ」ということも含めて、一審を破棄して差し戻して、これがいわゆる「砂川判決」なんですね。
○砂川判決(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)(裁判所 | 裁判例情報)
砂川判決成立の背後にあった密談と日本の「主権放棄」
青木理 で、ここまではもうぜんぶ教科書にも書いてあるんですけれども、実を言うと、この一審判決で東京地裁で無罪が出た後にビックリしたわけですよ、日本もアメリカも。で、どういうことが行われていたかと言うと、これ、アメリカの公文書が公開されていて、その後の2000年代に公開されていて、どういうことが起こっていたのかっていうのがちょっとづつ判ってきてるんですね。
例えば、どういうことが起きてたかっていうと、一審の無罪判決が出た後ね、当時のマッカーサー駐日大使[=ダグラス・マッカーサー2世 Douglas MacArthur II、連合国最高司令官ダグラス・マッカーサーの甥]が、当時の藤山噯一郎外務大臣に会ってね、こんなこと言ってるんですね。「判決を正すために迅速な行動をしてくれ」と。
○"U.S. ambassador pressed Japan’s top court to reject lower court ruling that U.S. forces in Japan are unconstitutional"(Japan Press Weekly, May 11, 2008)
記事内でマッカーサー駐日大使から国務長官宛の公電(1959年3月31日付)を引用:
"[MacArthur II] wrote that he had expressed his view that the ruling “MAY CREATE CONFUSION IN MINDS OF PUBLIC,” and stressed “IMPORTANCE OF GOJ TAKING SPEEDY ACTION TO RECTIFY RULING BY TOKYO DISTRICT COURT.” He also wrote, “IT WAS MOST IMPORTANT FOR GOJ TO APPEAL DIRECTLY TO SUPREME COURT.”"
これを受けて「迅速にやんなくちゃ」と思ったから、検察は慌てて跳躍上告をしたわけですね。
で、その跳躍上告を受けた最高裁では何が起きてたかっていうと、この最高裁判決を間近に控えてた時期ですよねぇ、アメリカの公使とか、大使——駐日大使ですね——なんかと、実を言うと、当時の最高裁のトップの田中耕太郎っていう長官は、実は何度か会ってるんですね。で、そこでこんなこと言ってるんですね。「実質的な全員一致の判決を生み出して、世論を揺さぶる少数意見を回避します」と、「回避したいんです」と。
○"Supreme Court chief justice tipped off U.S. diplomats in 1959" (Asia & Japan Watch by The Asahi Shimbun, April 09, 2013)
記事内でマッカーサー駐日大使から国務長官宛の公電(1959年8月3日付)を引用:
"[The Aug. 3, 1959, telegram] quoted Tanaka as telling the deputy chief of mission that "he now thought the decision in the Sunakawa (sic) case probable in December," adding that "he hoped Court's deliberations could be carried out in manner which would produce a substantial unanimity of decision and avoid minority opinions which would 'unsettle' public opinion.""
荒川強啓 密談を開いていたと。
青木 密談を開いていたんですよ(笑)
まとめ
青木理 で、これ、つまり、整理すると、一審でビックラぶっこいちゃった日本政府とアメリカ政府なんだけど、特にアメリカ政府は、大使が、とにかく日本政府に「何とかしろ」って圧力をかける。挙げ句の果てには、独立すべき司法のトップである最高裁長官がアメリカの要人と会って、「何とかしまっせ」って言ってるわけ。
つまり、どういうことかって言うと、これは、司法の独立はおろか、日本の主権すらもうねじ曲げますよと言って、ある意味、何て言うのかなぁ、主権を譲り渡したに等しい行為をしてるわけですよ。
だから、現政権がとは言わないけれど、現政権を熱心に支持してる人たちが、僕が一番嫌いな言葉だけど、「売国」とか「国賊」とか「反日」とかいう言葉があるとするならば、この行動こそが、僕はある種そう言う言葉にピッタリくるんじゃないかなという気がするわけ。
で、その判決を、集団的自衛権行使容認をできるんだという根拠として持ってくるっていうのは、あまりにもセンスがないというかね、それこそ、敢えて言いますけど、売国的と言うか、国を売り渡す行為を正当化してるんじゃないですかっていうふうに僕は思うんですよ。
荒川強啓 元被告の土屋源太郎さんってかたが、再審請求訴訟をおこなってますよね? 「あの当時のこの判決は何だったんだ?」っていうことでのね。
○砂川事件最高裁判決は無効だ――土屋源太郎さんインタビュー(週刊かけはし)
青木 そうです。
今の裁判所の状況でその再審が果たして通るかっていうと、なかなか難しいと思いますけれども、ただ、その後、2000年代ぐらいに入って、アメリカの公文書っていうかたちでこうやって明確に出てくると、まともに考えれば、これは一審の判決のほうがまともだったんじゃないの、あるいは、最高裁の判決は少なくともおかしかったんじゃないの、なぜなら、司法の独立が完全に犯されてるじゃないか、日本の主権すら犯されてるじゃないか、っていうようなことで、場合によっては、真っ当に考えれば、再審で最高裁判決が破棄されたっておかしくないと思いますよね。
荒川 ホントですね。
青木 だから、そんなものを今回持ち出してくるっていって、いくら古証文としてもヒドい話だし、こういう背後事情を考えると、「何を考えてるんだ?」と、「あなたたちこそ日本を辱めてるんじゃないか?」っていうふうに、僕なんかは言いたくなっちゃいますよね。
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