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小津安二郎のローアングルについての読書メモ

○小津安二郎のローアングルについての読書メモ

 

小津安二郎のロー・アングルについての読書メモ。

先日の私の仮説は、トンチンカンもいいところだったようで……。

原田雄春(小津組のカメラマン)が小津から直接聞いた話

原田雄春(カメラマン) [……]僕はね、昔、こんなこと話した記憶がある。「絵というのはたいがいかぶせて描いてある。絵というのはロー・アングルというのがむずかしいのですか」と聞いたのです。「それはそうだよ。絵を描くにはどうしてもああいう位置から対象を見ることになっちゃう。しかし映画というのは絵で描けない位置で撮れる。それがロー・アングルであって、畳をかぶせて撮ると人物を引き締められないことがあるんだよ」そう言われた。しかし基礎的な理論がどうなってるかということは、聞こう聞こうと思っていて、とうとう聞き損じちゃったですからね。

○座談会「小津先生という人」、月刊『シナリオ』1964年2月号(シナリオ作家協会)

小津が、「映画というのは絵で描けない位置で撮れる」ことを自覚して、映画にしかできない挑戦をおこなっていたというところが面白い。

それにしても、「基礎的な理論」、なんで聞き損じちゃったかなぁ。残念。

 

佐藤忠男(映画評論家)

[……]小津は、そうした多様なアングルはいっさい採用せず、ほとんど不自然なくらい、ローアングルに固執したからである。おそらく、小津は画面の構成が不安定になることを嫌ったのである。

佐藤忠男『小津安二郎の芸術』上(朝日選書、1978年)p.18

まぁ、「基礎的な理論」の軸はこのあたりのような気がする。

また、透視図の消失点は低いほうが、画面の下側が圧縮されて、上側が解放されるので、重心が低くなって安定するような気もする。

 

前田英樹(フランス文学者)

たとえば、日本間に座る複数の人物をロング・ショットで撮るときのキャメラの位置は、人が座って見る位置よりも低く、寝そべって見る位置よりも高い。絵がこの位置から描かれることがないのは、ひとつに画家の身体上の苦痛によるのだろうが、もっと重要なことは、そうした苦痛が、見られる事物に対する主体の支配力をそのまま弱化させるということではないのか。これは、もはや単なる苦痛ではない。身体がイマージュ総体に対して獲得しつづける地位の減縮である。むろん、人はこの位置からさまざまななものを観ることができる。だが、その知覚はいつでも中心化されたべつの知覚の回想によって補われ、仕立て直され、破棄されてしまう。

身体による知覚は、小津が定位したロー・ポジションに定位することができない。言いかえれば、小津は非中心的な知覚がイマージュの総体に対して最も無基盤に定位しうるポジションを驚嘆すべき直覚によって引き出したのだ。

前田英樹『小津安二郎の家——持続と浸透』(書肆山田、1993年)pp.32-33

「驚嘆すべき直覚によって」というのは、本人の意図に関係いことを何でも書けてしまうのでチョッとズルいような気もするけれど、話としてはおもしろい。

私は、ロー・アングルよりも会話シーンでのカメラの切り返しのほうに「非中心的な知覚」のようなものを感じる。

気をつけて観ていると、例えば、笠智衆がアップのときにはカメラ目線で、切り返しで原節子のアップのときは目線を外していても、同じシーンの次カットでは笠が目線を外していて、原がカメラ目線だったりすることがある。カメラ目線によってカメラの外在性が破棄されると同時に、ある時は誰かの知覚、あるときは別の人の知覚、またある時は誰の知覚でもなく、今度は無人の部屋をロー・アングル——という具合に視点が常に分散・移動している。

ところで、この本のAmazon.co.jp唯一のカスタマーレビューには「念仏を唱えるように抽象的概念を100回程繰り返して、それで小津映画の秘密を解明したつもりの噴飯本」と書いてある。ちょっと冗長なところはあるものの、決して抽象的ではないと思うのだけど……。

人文書のカスタマーレビュー全般に言えることだけれど、「酸っぱいブドウ」的な悪口を工夫をする代りに、どうして「私には難しくて理解できなかった」と書かないのだろうか? この手のレヴューのほとんどには、内容に関する言及がほとんどない。筆者に気の毒だ。


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