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問題:日本で初めて男の子を演じた大人の女性声優は誰でしょう?

◯問題:日本で初めて男の子を演じた大人の女性声優は誰でしょう?

 

日本で初めて大人の女性が男の子を演じたラジオ・ドラマは?

今や、アニメ・洋画で女性声優が男の子を演じることは珍しくないが、その始まりは1954年。ラジオ・ドラマ「ヤン坊ニン坊トン坊」(NHKラジオ第1、1954年4月11日〜1957年3月31日、日17:30-18:00)。

「ヤン坊ニン坊トン坊」は、西の国(インド)の王が虎の国(中国)の皇帝に献上した高貴な白い仔猿の3兄弟が、両親に会うために逃げ出して故郷に帰る様子を描いた冒険譚。

原作は、ウォルター・ジョン・デ・ラ・メア(Walter John de La Mare, OM)の The Three Mulla Mulgars  (1910), aka The Three Royal Monkeys。日本では、ドラマ化の2年前に脚本家・飯沢匡自身によって『サル王子の冒険』(岩波文庫、1952年)として出版された他、『ムルガーのはるかな旅』(岩波少年文庫、1997年)としても翻訳されている。

児童文学ではあるが、執筆当時にイギリスとロシヤが中央アジア覇権をめぐって展開していた対立、いわゆる「グレート・ゲーム」(the Great Game)がストーリーの背景にあると考えられる。


「ヤン坊ニン坊トン坊」最終回
(NHKラジオ第1、1957年3月31日(日)17:15-18:00)

 

日本で初めて男の子を演じた大人の女性は黒柳徹子

このラジオ・ドラマの主役である3匹のオスの仔猿を、成人女性が演じている。その3人うちのひとりが、「徹子の部屋」(テレビ朝日)で知られる黒柳徹子。末っ子のトン坊を演じている。この作品は、彼女の初主演作品でもある。主役3人のうち、初回から最終回まで3年間演じ通したのは黒柳のみである:

  • ヤン坊宮内順子(文学座、劇団の地方公演のため降板)→里美京子(NHK放送劇団)
  • ニン坊:西仲間幸子(文学座、妊娠により降板)→横山道代(NHK放送劇団、現・横山道乃)
  • トン坊黒柳徹子(NHK放送劇団)

里美・横山・黒柳の3人は「NHK三人娘」として人気者となり、「ヤン坊ニン坊トン坊」も好評を博した。


「ヤン坊ニン坊トン坊」収録風景
 

上の写真の右から2番目、髪を触っている女性が黒柳徹子。ヴァイオリニストの父とエッセイストの母とのあいだに乃木坂で生まれた深窓のご令嬢。

ちなみに、写真中央のマイクは、マツダA型ベロシティーマイクロフォンと思われる。「マツダ」(MAZDA)はGE社が所有していたアメリカのブランド。玉音放送も、同じ型のマイクで録音された。

「イチかバチかの大冒険」

番組オーディションの様子は黒柳の著書『トットチャンネル』(新潮社、1984年;新潮文庫、1987年)に詳しい。NHK職員が次のように説明するシーンがある:

「[……]このオーディションの最大の目的は、

『大人で子供の声を出せる人』

という事。作者の飯沢匡先生は、子役を使わずにやりたい、脚本を、本当に理解し、感情を表現して演じる、ということは、子役には難しいし、スタジオで、学校の宿題をやったりしているのを見るのは、子供が気の毒でたまらない。まして、これは、ナマ放送の上に、歌が何曲もあるので、子供には無理だろう、と、おっしゃってます。それで、今までに、ないことですが、大人の女性の皆さんに、男の子の声を出して頂いてみることにしました」

[……]「これは、大冒険で、かなりの反対もあったけれど、飯沢匡先生の強い希望であるので、イチかバチか、やってみようと思う」ということも、その人は、つけ加えた。なお、役に合った声が必要なので、審査員になまじ、顔を見せないほうがいい、という事で、ガラス箱のむこうの副調整室と、マイクの前に立つ女優とは、厚い木の、ついたてが、遮断した。

黒柳徹子『トットチャンネル』(新潮文庫、1987年)PP.190-191

ちなみに、このオーディションには、当時文学座の岸田今日子も参加していた。このとき選に漏れた彼女も、のちに「ムーミン」(フジテレビ、1969年および1972年)でムーミンを演じ、男の子の声を担当することになる。

女性声優に男の子を演じさせるという脚本家・飯沢匡の「イチかバチか」の「大冒険」が、今や普通のこととして浸透している。

孫悟空の野沢雅子や、江戸川コナンの高山みなみへ続く道の始まりは、黒柳徹子だったということになる。


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