原田宗典『旅の短編集 春夏』・『旅の短編集 秋冬』(角川文庫、各2000年・2001年)
○原田宗典『旅の短編集 春夏』・『旅の短編集 秋冬』(角川文庫、各2000年・2001年)
真夜中の叙事詩
その文庫本は、ある残念な出来事の直後に手に入れたものです。
旅に関する短い話が、真っ白い紙にロイヤルブルーの文字で印刷されている、あとがきのない本です。
私は、真夜中によく聴いた低い声を真似て、音読を始めました。
「ニュージーランド最大の湖、タウポ湖から流れ出すワイカト川。」
最初の文で舌が絡まってしまったので、すぐに黙読に切り替えました。活字を目で追っている内に、いつしか私はうたた寝をしていました。
どれくらいの時間が経ってからでしょうか、私はラジオの音で目覚めました。しかも、どこかで見たことのある部屋の二段ベッドの上の段にいるのです。
見おろすと、坊主頭の少年がこちらを背にして勉強机に向っています。私の気配に気付いたのか、少年が一瞬後ろを振り返りました。私はあわてて身をひそめ、やがて仰向けの姿勢に戻りました。
「ニュージーランド最大の湖、タウポ湖から流れ出すワイカト川。」
ラジオの声に耳を澄ましている内に、私は再び眠りに落ちました。
目を覚ますと、部屋には誰もいませんでした。
私は梯子を伝ってベッドから降り、少年の勉強机の椅子に腰を下ろしました。不意に人の気配を感じて、私は一瞬後ろを振り返りました。気のせいだと分かると、私は机の上の文庫本を開きました。
「ニュージーランド最大の湖、タウポ湖から流れ出すワイカト川。」
『旅の短編集 春夏』・『旅の短編集 秋冬』は「JET STREAM」(TOKYO FM、月〜金24:00-24:55)でかつて、金曜日に放送されていた「Midnight Odyssey」のスクリプトを書籍にまとめたものです。
『旅の短編集 春夏』は真っ白い紙にロイヤルブルーの文字で、『旅の短編集 秋冬』は真っ白い紙にグリーンの文字で印刷されています。2冊でひと組になっているので、『春夏』には あとがきがなく、『秋冬』には まえがきがありません。
『旅の短編集 秋冬』のほうには、「からっぽラジオ」という、ラジオをモチーフにした話が収められています。
※当ブログ内の関連エントリー:
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コメント
『小説すばる8月号』に、「ノンフィクション新連載」として始まったのが、柳澤健氏による
『1974年のサマークリスマス -- 林美雄とパックインミュージックの時代』
これはなんだか面白そうです
「久米宏 ラジオなんですけど」14日の番組冒頭でも触れてました
ポッドキャスティングでも聴けます。ちなみに林さんと久米さんはTBS同期入社みたいです
投稿: | 2013年9月15日 (日) 19時57分