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ケン・ローチ[監督]『天使の分け前』The Angel's Share(2012年)を観た。

○ケン・ローチ[監督]『天使の分け前』The Angel's Share(2012年)を観た。

 

だいぶ前のことだけれど、ケン・ローチ[監督]『天使の分け前』The Angel's Share(2012年)を観た。

スコッチ・ウィスキーを題材にした社会派の青春映画。

映画『天使の分け前』公式サイト


ケン・ローチ[監督]『天使の分け前』
The Angel's Share
(2012年)
予告編

町山智浩がラジオで紹介していた。


町山智浩「たいしたたま」「赤江珠緒 たまむすび」(TBSラジオ、2013年3月26日(火)13:00-15:30)
 

銀座テアトルシネマで観賞。この作品が、5月いっぱいで閉館した同館のクロージング作品だった。先日の銀座・三原橋のシネパトスといい、単館系の劇場がどんどん閉館してゆく……。


銀座テアトルビル
 

銀座テアトルシネマ
 

最終上映作品
 

この映画について、ピーター・カッタネオ[監督]『フル・モンティ』The Full Monty(1997年)に準える宣伝文句が目立つが、私はどちらかというとダニー・ボイル[監督]『トレインスポッティング』Trainspotting(1996年)を連想した。ただ、『トレインスポッティング』ではユース・カルチャーが大きくフィーチャーされたのに対して、『天使の分け前』ではスコットランドの伝統文化がモチーフになる点が異なるけれど。

一番の見どころは醸造所の美人ツアー・ガイドだったりして……。

商業的には、本作が今年76歳の名匠の最大の成功となったとのこと。

あらすじ

主人公のロビーは、身重の恋人がいるにもかかわらず、悪い仲間との付き合いがやめられず悪事ばかり働いている。昔ながらのクラン同士の対立に縛られて、危険も多い。逮捕され、裁判で社会奉仕を言い渡された直後、恋人が出産するが、ロビーは恋人の父の妨害で出産に立ち会えなかった。後日赤ん坊と対面し、恋人に立ち直りを誓うロビーは、ウィスキー好きの保護司との出会いで、自分にテイスティングの才能があることに気づく。保護司の誘いで、エディンバラで開かれたウィスキーの勉強会に参加したロビーは、オークションにコレクター垂涎の超高級ウイスキーが樽で出品されることを知る。ロビーとその仲間たちは、ある奇策に打って出るのだが……。

感想など

ロビーが恋人の出産への立会を阻まれるシーンや、かつて犯した罪に向き合うシーンなどにおける、心の痛みを肉体的な痛みとして可視化する演出は、観る者に生々しい共感を醸成する。上手いなぁ。

結末については、町山が「これでいいのか?」と言っていたれど、確かにそういう意見もあるかもしれない。

ただ、札付きのワルのロビーが、今いる環境から抜け出し、ひとかどの人間として家族を養うことのできるまっとうな生活を手に入れる方法が他にあり得るだろうか?

エンディングを観ながら想い出したことがある。以前、夜遅くスーパーのレジに並んでいた時に、前のふたりがこんな話をしていた:

知り合いにデリヘルやってる人がいるんスよ。オレも金貯めたら、その人に教えてもらって、デリヘル始めようと思うんス。

どう考えてもやめたほうがいい。そんな突飛でハイリスクなことをするよりも、普通にカタギの職に就いた方がいいに決まっている。

しかし、人生における成功のイメージ、および、それを手に入れるための具体的な方法のイメージは、その人の育った環境や受けた教育の影響を受け、現在置かれている状況によって決まる。

また、レイモンド・ウィリアムズの『長い革命』The Long Revolution(1961年)か何かで(違ってたらすみません)、こんな趣旨のことを読んだ記憶がある——チャールズ・ディケンズ の『大いなる遺産』の主人公である浮浪児ピップは、遺産を得たことで紳士になることができた。裏を返せば、遺産を得るというような奇跡でも起きない限り、彼は浮浪児のままだった。みにくいアヒルの子は白鳥だったから最後に逆転できたのであり、シンデレラも魔法の力がなければ下女のままだった。

映画の中で、ロビーがあの方法で逆転しようとしたことは、裏を返せば、あれぐらいしか逆転する道がないという厳しい現実を示唆している。

あるいは、ポジティヴな見方をすれば、ロビーのあの奇策は、広い意味では、ブルジョワを出し抜く一種の革命なのかもしれない。

『大いなる遺産』のピップも、『トレインスポッティング』のトレントも、金を得てロンドンに出る。ロビーも恋人の父から、金をやるから娘と別れてロンドンに行けと迫られた。しかし、ロビーはスコットランドでの再起を目指す。

ロビーにはウィスキーの味を利き分ける天賦の才能があるぶん、他の仲間3人よりは良いスタートが切れるかもしれない。他方、映画の中で「分け前」を得て、ロビーとその家族を見送る仲間達は、「飲んでしまおう」と無邪気に語る。

しかし何よりも、ロビーは、理解ある大人との出会いによって、地元に活路があることとや、自分の天賦の才能に初めて気づくことが出来た。これこそが、ロビーが地元コミュニティーから得た「天使の分け前」と言えるだろう。


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