書き起こし(4):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
○書き起こし(4):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
この日の放送は、歴史学者の秦郁彦と吉見義明がゲスト、「従軍慰安婦」問題がテーマ。
○2013年06月13日(木)「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」(対局モード) - 荻上チキ・Session-22
勉強のために、内容を文字起こし中。書き起こし(3):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)のつづき。
長いので、適宜、小見出しを入れております。
番組としては、今回文字起こしした部分がハイライトという印象。
出し抜けに、番組の流れを断ち切ってまで、懐に忍ばせた隠し剣を抜いた秦。吉見はどう迎え討つのか?
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「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
慰安婦の生活状況——「楽しく」「暮らし向きは良かった」か?
荻上チキ この後ですね、強制連行や、あるいは河野談話をめぐる評価の話をしようかと思っているんですけれども、その前に、秦さんから先ほどの議論に対して補足があるということで、いかがでしょうか?
秦郁彦 最近吉見さんがですねぇ、しばしば繰り返しておっしゃってることなんですけれども、強制連行があったかどうかっていうのは大した話じゃないと。
荻上 ほう。
秦 今はね。現在は、4つの自由がなかった、慰安所における性奴隷という、こちらのほうがずっと重要なんだということを何度も言っておられるんで。
私は強制連行はなかったと思いますけれども、これ議論するとね、橋下さんのような議論になっちゃいますんでね。
その……今の……慰安所の状況はそんなに酷いものであったのかどうかということをちょっと申し上げたいと思うんですけどもね。
荻上 劣悪な環境で働かされた、だから性奴隷だっていうけど、そもそも劣悪だったのか疑問があると。
秦 そういうことです。
4つの自由ということは、これはね、吉見さんは、居住の自由・外出の自由・廃業の自由・接客拒否の自由がないというね、それは慰安所の女性たちは文字通りの性奴隷だというふうにね述べておられるわけですよ。
それで、吉見さんが編纂されたですね『従軍慰安婦資料集』っていうのがですね、これにですねぇ、1945年、北ビルマで捕えられた韓国人の慰安婦20人に対する米軍の尋問書というのが入ってるわけですよ、訳されたものがね。
○アメリカ戦時情報局心理作戦班日本人捕虜尋問報告 第49号 1944年10月1日 APO689
※前出史料の日本語訳
○Report No. 49: Japanese Prisoners of War Interrogation on Prostitution - Segunda Guerra Mundial - Exordio
※前出史料の原文(英語)
◯アメリカ戦時情報局心理作戦班アメリカ陸軍インド・ビルマ戦域軍所属APO689(テキサス親父公式サイト内)
※前出史料の原文(英語)・日本語訳・文書の画像
○慰安婦:米軍の捕虜尋問資料 第49号:イザ!
※前出史料の原文(画像)などへのリンク
秦 で、その中でどういう生活だったんだということを訊かれてですね、まぁ、こういう件があるんです:
兵隊さんと一緒に運動会、ピクニック、演芸会、夕食会などに出席して楽しく過ごした。
それから次にですね、
お金はたっぷりもらっていたので、暮らし向きは良かった。
荻上 慰安婦の当事者の発言ですか?
秦 そうですね、20人のねぇ、証言です。
それから、
蓄音機も持ち、都会では買い物に出かけることが許された。
と、
接客を断る権利を認められた。
それから、
一部の慰安婦は朝鮮に帰ることを許された。
兵隊さんから結婚申し込みの例はたくさんありました。
というのがありましてね、何よりも、月の収入はですね750円、彼女たちのね。その頃日本の兵隊さんはねぇ、命を的に戦ってるんですけど、月給は10円ぐらいなんですよ。
荻上 ううん。
秦 つまり75倍という高収入を得ていたわけですね。
荻上 高収入でかつ楽しかったという発言があるということですね。
秦 日赤の看護婦さんの10倍です、この金額は。さらに、軍司令官や総理大臣より高いんですね、この通りなら。だいたい似たり寄ったりだったと思うんで、私はこういう状況下にある女性たちがねぇ、性奴隷であったと思えませんねぇ。雇い主よりはるかに高い収入を得ている奴隷なんて、この世の中にいますか?
荻上 っていうのは今の、吉見さんへの質問っていうことですね?
秦 そういうことですね。
荻上 いかがでしょう?
慰安婦の「高給」と外地のインフレ
吉見義明 ええっとですね、あの、まず、これは女性たちがこういうふうに言ったとおっしゃいましたけれども、この尋問調書はですね、2名の業者と20名の朝鮮人女性のヒアリングをアレックス・ヨリチ(Alex Yorichi)という人が聞いてまとめてるわけです。どの部分が被害者の女性の証言であり、どの部分が加害者側の業者の証言かよく判らないっていう点があります。
それからもうひとつはですね、「将兵と一緒にスポーツ行事に参加」したというふうなことがありますが、これはたぶんですね、戦地で女性がいないので慰安婦をそういう所に連れ出すとか、宴会に連れ出すとか、そういうようなことであったと思います。夕食会に出席するということもあると思うんですね。
もうひとつは、高収入だということですけれども、当時のビルマのもの凄いインフレっていうことをですね考慮に入れておられないということは、非常におかしなことだと思います。
荻上 インフレ?
吉見 えぇ。ビルマはですねぇ、軍票を大量に徴発して、1943年頃からもの凄いインフレになるわけですね。
荻上 インフレというと、お金の価値が下がるということですね。
吉見 1945年に入ると、もう軍票はほとんど無価値。
それで、女性たちがなぜそれだけのお金を持っているかっていうと、慰安所に通う軍人がですね、持ってても何も買えないのでチップとして女性たちに渡すわけですよね。
南部広美 「軍票」っていうのは何でしょう?
吉見 軍隊が占領地で発行する「軍用手票」っていう紙幣に代るものですね。
南部 お金に代るもの。
吉見 この時期は、南洋開発銀行というところが、そういうものを出してたわけです。
荻上 後ほどお金に引き換えるっていう?
吉見 そうですよ、まぁ、一応現地の、まぁ、例えば1ルピーは日本円で1円ということになってたわけですけど、内地と比べてですね、もの凄いインフレになるので、外地金庫というのをつくってですね、そのインフレが内地に及ばないようにしてたわけですね。
○NHKスペシャル|圓の戦争(NHKオンライン)
○≪NHKスペシャル『圓の戦争』 より文字起こし≫|MelancholiaⅠ
吉見 現地では軍票を持っててもほとんど何も買えないので——
荻上 名目上の金額だけだったと。
吉見 ほとんどそういう状態になってるわけです。
それから、もうひとつはですねぇ、秦さんが引用されなかった所があるんですけれども、女性たちはそれだけのお金を持っているけれども、すぐに「生活困難に陥った」というようなことが書いてあるわけですね。
荻上 同じ証言ですか?
吉見 同じ証言です。で、もしそれがその、高額であればですねぇ、どうして生活困難に陥ることが起こるんでしょうかね? これはまぁ、インフレっていうことを考えないと解らないんではないかと思うんです。
それからもうひとつは、同じ引用された捕虜尋問報告のいちばん初めでですね、女性たちはどういうかたちでビルマに連れて来られたのかということを書いてる部分があるんですけれども、その部分を見ますとですね、こういうふうに言っています。1942年5月に、日本の周旋業者たちが、朝鮮にやって来て女性たちを集めたわけですけども、
その「役務」の性格は明示されなかったけれども、それは病院にいる負傷兵を見舞い、包帯を巻いてやり、そして一般的に言えば、将兵を喜ばせることにかかわる仕事であると考えられていた。
これは誘拐ですよね、騙して行くわけですから。それから、
これらの周旋業者が用いる誘いのことばは、多額の金銭と、家族の負債を返済する好機、それに、楽な仕事と新天地における新生活という将来性であった。
これは甘言に該るので、これも誘拐罪を構成します。
このような偽りの説明を信じて、多くの女性が海外勤務に応募し、2、3百円の前渡金を受け取った。
というふうにありますんで、まぁ、人身売買でもあるわけです。
こうして、現地で慰安所の生活に拘束されたというふうに書いているんですよね。
「日本の周旋業者」の「甘言」?
荻上 はい。ちょっと、今のを質問に変えますと、当時インフレだったことを考慮しないのかというのが1点と、それからその、今読み上げて頂いた方がたのそもそも来た理由というものが、そもそも甘言、騙されて来ている方がたなので——
秦 それを騙したって——
荻上 誰が騙したんでしょう?
秦 まず、ほとんど朝鮮人でしょうね。
吉見 これ、「日本の周旋業者」って書いてありますよ。
秦 え?
吉見 「日本の周旋業者たちが朝鮮にやって来て」。
秦 「日本人の」ですか?
吉見 いやいや、「日本の」だから「日本人の」でしょう?
※註:該当箇所の原文は、”Early in May of 1942 Japanese agents arrived in Korea for the purpose of enlisting Korean girls for "comfort service" in newly conquered Japanese territories in Southeast Asia.”
"Japanese agents" だけでは「日本の」か「日本人の」かは不明だが、"arrived in Korea" とあるので、少なくとも "Korea" の外から来た "agents" であると読める記述にはなっている。
秦 当時日本人なんですよ、朝鮮人はね。だいたいね——
吉見 いや——
秦 朝鮮に住んでた日本人でねぇ、朝鮮語で朝鮮人を騙せるほどねぇ、朝鮮語上手い人は、ほとんど1人もいなかったと思います、えぇ。
吉見 元締めが日本の業者で、まぁ、手足としてですね地元の業者を使うってことはよくあることですよね。
それから、この周旋業者っていうのは、軍に選定された人物であって、軍から色いろ便宜を図ってもらって、まぁ、誘拐とか人身売買やってるわけですよね。
しかし、これは犯罪なわけでしょう? それで連れてった元はどこにいるのかっていうと、軍の施設である慰安所に入れるわけですよね。そうすると、そこで軍の責任が発生しないんですか? どういう風にお考えです?
秦 そこは関係はないわけですよ。朝鮮総督府の管内でですよ——
吉見 いやいや。
秦 朝鮮人が騙したということね、で、それをね、ちゃんと旅行許可を出してるわけでしょ? そすと、朝鮮人の巡査もいたわけですなぁ。それで、どうしてそういう騙しを摘発しなかったんですか?
荻上 ちょっと先ほどの話に戻って、気になったのが、先ほどそういう証言があって「楽しかった」という話があったということなんですけど、その他の慰安所でも同様に楽しかったということになるんでしょうか?
秦 例えば、こういうのがあります。文玉珠(ムン・オクチュ)というねぇ慰安婦なんですがねぇ、彼女の一代記が本になってるんですよ。これは山川菊栄賞をねぇ、もらった。本当にねぇ——
荻上 当事者の発言がということですか?
秦 いやぁ、その、回想記です、一代記です、元慰安婦のね。で、なるほど、これは非常に良くできてる、読ませる本なんですけどもねぇ。
で、彼女は色んな所を転々としたんですけど、最後はビルマに行ってるんですね。で、ラングーンにいたんです、首都のね。「利口で陽気で面倒見のいい慰安婦」として将軍から兵隊までね、人気を集めチップが降るように集まったと。
荻上 はい。
秦 それで、5万円貯金が出来たと、2年余りでね。
荻上 えぇ。
秦 そのうち5千円を軍用郵便で下関郵便局へ送ったわけですねぇ。
荻上 何年ごろの話ですか?
秦 昭和18年。戦争中ですね。ですからね、これなんかもですね、非常に楽しかったというのが基調なんですよ。
だからね、なかには悲惨な人もいたかもしれない。しかしねぇ、兵隊たちに良いサービスをしてもらうために、軍もそれなりに気を遣うわけです。それで、業者との間では、だいたい慰安婦側に立って有利になるようにしてやってる。ね。だからね、さっきの……要するに、米軍の尋問調書でねぇ、あれでも性奴隷とおっしゃるんですか?
吉見 そうですね。
秦 ほう。だって、4つの自由のうち3つの自由は完全にあったわけですよ。
吉見 いやいや。
秦 もうひとつ、居住の自由っていうのはねぇ、これはねぇ、居住の自由っていうのは看護婦さんもないですよ、居住の自由は。だってね、まさか、戦地でねぇ、バスで通勤なんていうねぇ、ね、アパートとか借りてなんていう、そんなことあり得ないでしょう?
吉見 それは、看護婦さんと、それから慰安婦の女性たちがさせられている事柄って、全く違うじゃないですか? その、看護をするというのはですね、本人にとってはそれは名誉なことですけれども、軍人たちの性の相手を毎日させられるっていうことと全く性格が違うんじゃないですか?
秦 それを論じたってしょうがないでしょう? 職業のひとつとして割り切ってんだから。その代りにね——
吉見 職業だとおっしゃいますけども、誘拐で連れて行かれた——
秦 嫌な仕事かもしれないけどね、軍司令官よりも高い給与もらってんだからからねぇ——
吉見 いや、それは——
秦 みんなねぇ、なりたがるんですよ。
吉見 それは幻想なわけでしょ?
秦 騙されてっていうのはおかしいですよ。
荻上 今、秦さんの話の中では、「なかでは」っていう話があったんですけど、なかでは困ってる人も、悲惨な例もあったけど——
秦 そりゃ、あるでしょう。
荻上 こういった豊かなケースもあったというお話があったんですが。
あの、論点としては強制連行という所が残っているので、吉見さんのほうから伺っていきたいと思うんですけど——
(つづく)
※当ブログ内の関連リンク
○「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
○翻訳:英『エコノミスト』誌による安倍政権評:"Abe’s master plan", The Economist, May 18th-24th 2013, p.11
○書き起こし(1):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
○書き起こし(2):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
○書き起こし(3):「歴史学の第一人者と考える『慰安婦問題』」秦郁彦 vs 吉見義明:「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ、2013年6月13日(木)22:00-23:55)
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