梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)を観た。
○梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)を観た。
——ビデオや映画の場合、技術的指導権は本質的に巨大産業企業の手中にある。
——それに対して、自由ラジオの場合は、技術の大半は《器用仕事(ブリコラージュ)》の独創性、自由ラジオを促進する当人に依存している。
梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)
梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)
予告編
梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)を観てきた。ヒューマントラストシネマ渋谷の初日初回に観賞。宮下公園の向い、1FにDIESELの店鋪が入居する小洒落たビルの8F。
ヒューマントラストシネマ渋谷
このビルの8F
午前10:00からの上映だったせいかもしれないけれど、観客は思ったほど多くなかった。
上映中に館内の火災報知器が作動し、上映がストップするハプニングが発生。程なく誤報と判明し、上映再開。珍しい体験をした。帰りにタダ券もらったゼ。
南三陸災害エフエム「FMみなさん」の奮闘が素晴らしい
東北地方太平洋沖地震発生から67日目の2011年5月17日に開局した南三陸災害エフエム「FMみなさん」は、初めから10か月の期限付きと決まっていた。理由は町の財政難。局員は9人の町民。みんな放送の素人だ。町の臨時職員という立場で、時給850円、月収12万円。閉局後の就職先は未定。町の総合体育館「ベイサイドアリーナ」のトイレの横の廊下がスタジオだ。
映画のなかでは描かれていないが、2012年3月31日以降のFMみなさんは、「H@!(はっと)FM」(宮城県登米市周辺 76.7MHz)に放送を委託して活動を続け、2013年3月31日に完全に閉局した。
○南三陸災害エフエム 80.7MHz(公式ブログ)
○2年の活動に幕 南三陸災害FMが閉局 | 仙北郷土タイムス南三陸電子版|南三陸町のニュースサイト
2011年以降、相継ぐ臨時災害放送局の開局に触れて思うのは、災害エフエムには、自由ラジオ※とコミュニティー放送の要素が同時に含まれているということだ。必ずしも放送のプロでない人たちが自前のメディアをもつという活動であり、同時に、コミュニティー住民による住民のための顔の見える範囲内の放送であるからだ。
※「自由ラジオ」とは、有り体に言えばミニFMのことだが、民衆による自主メディア獲得の実践を指すときに使われる言葉。
映画の中で、有名女優がゲストとして電話出演する段になっても、電話の音声を放送に乗せる方法も技術もなくて困るというシーンがある。そこでヴァイタリティーを発揮して、iPhoneを手頃な大きさの瓶の上に乗せて高さをつくり、グースネック・マイクをiPhoneのスピーカーに近づけて音を拾う方法で即席に対処。後にこの方法でイヴェントの生中継までやってしまう。
スタジオでの各人の手探りの創意工夫にとどまらず、町民向けに各種イヴェントも開催。震災から時間が経過するにつれて「支援離れ」が進むなか、スポンサー探しに苦労しつつ、開催に無事漕ぎ着ける。ちなみに、このイヴェントの部分が映画のクライマックスにもなっている。コミュニティーを豊かにする事業であることが、コミュニティー放送の原点だ。これまでに消えていったコミュニティーFM局は、このことを忘れていたのだと思う。
パンフレットが素晴らしい
FMみなさんの方がただけでなく、この映画のパンフレットもとても素晴らしい。
まず、「東日本大震災とラジオの動き」という年表が掲載されていて、これが非常に便利。『ラジオのすごい人たち——今こそ聴きたい34人のパーソナリティ』(アスペクト、2012年)の著者・豊田拓臣氏の協力で、2011年3月11日から2013年3月31日までの動きを、2011年を中心にまとめたもので、「災害状況」「ラジオの放送」「ラジオと復興支援」に色分けされて記載されている。
東日本大震災とラジオの動き」
映画『ガレキとラジオ』パンフレット所収
映画関係者の寄稿の他に、
- 佐々木俊尚(ジャーナリスト)「みんなが友人に見えてくる軌跡の映画」
- 村上賢司(映画監督)「人間なめんな!災害直後のTBSラジオ」
を掲載。
後者の村上賢司による文章では、地震発生の瞬間の「小島慶子 キラ☆キラ」、翌日の「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の「人間なめんな!」の話、1週間後の「ニュース探究ラジオ Dig」における岡宗秀吾の話およびマキタースポーツの歌を紹介。読みながら、当時のことを昨日のことのように想い出す内容。
[……]映像作品はいくらでも嘘はつけるし、その「嘘」こそが中身を面白くさせるもっとも大きな要素である。しかしラジオの、しかも生放送はパーソナリティーのまさにパーソナルな部分が一番大切で、ニュースや音楽の間から滲み出るそんな「実」の部分をリスナーは感じ取りながら、笑ったり泣いたり、時には勇気を与えられている。
村上賢司「人間なめんな!災害直後のTBSラジオ」
では、ドキュメンタリー映画として素晴らしいか?
このような美点がいくつもあるにもかかわらず、この映画は、ドキュメンタリー映画としては、正直言ってイマひとつだ。
優れたドキュメンタリー映画のいちばんの見どころは、登場する人物の発する魅力や熱量だ。この点では、この映画は申し分ない。
私が考えるもうひとつの見どころは、取材者の発する熱量だ。極めて感覚的な言い方ではあるけれど、優れたドキュメンタリー映画からは、登場人物の熱だけでなく、取材者の発する熱も吹き出してくるイメージがある。この映画にはそれが感じられない。
この映画があまりにもキレイにまとまっているからだ。
ドキュメンタリー映画といっても、取材者にはストーリーや構成に関する事前の何らかの目論見がある。これは当然のことだ。しかし、取材対象の人間性に分け入れば分け入るほど、そうした目論見にほころびが生じ、取材対象は想定していた枠組みからはみ出してくる。取材対象は生きた人間であり、魅力ある生きた人間に惚れ込めば、もっと知りたくなるから当然のことだ。
そういう破綻が作品の魅力になる。しかし、この作品は、取材によって得られた素材をキレイに型にハメたものにとどまっていると思う。映画というよりはテレビの特集。映画の魅力は、テレビでは見ることのできない規格外の物が観られることだと思う。
ナレーションが不可解
次に、役所広司によるナレーションが不可解だ。
一人称のナレーター=「僕」は映画の冒頭で、自身が津波に飲まれて死んだと語る。『火垂るの墓』みたいだなと思ったり思わなかったり。しかし、「僕」は鎮魂の花火で意識を取り戻す。生きてるの?
ひょっとしたら南三陸町の被災と再生を擬人化しているのかとも思ったが、瓦礫のなかから掘り出された写真の数かずが画面に映し出されるなかで、「僕」は、自分もこの中のひとりかもしれないと述懐する。ということは、やっぱり犠牲者? しかし、映画の終盤では自身の「生き返り」について言及する。
この特殊な設定が感情移入を妨げる。
単に、私の読解力不足かもしれません。すみません。
泣ける映画をふわっと愉しみたいだけの人には、何の問題もないと思う。
なぜリーダーを捜しに行かない?
また、FMみなさんのリーダーが突然ラジオを2週間欠勤するくだりがある。リーダーが帰ってきて自ら語るまで、失踪の真相は判らない。ラジオ局のメンバーは遠慮して直接本人に聞くことができないのだ。同じ被災者であるため、全員に多かれ少なかれ何らかの事情があることを知っているからだ。
「なぜ代りに映画のクルーがリーダーを捜しに行かない? なぜ帰ってくるまで待っているんだ?」と、観ていて歯がゆい。惚れ込んだ取材対象が2週間も姿を消しているというのに、なぜ追跡しないのだろう?
実は、この失踪の理由は、FMみなさんに限らず、全ての災害エフエムに関わる問題であり、敷いては被災者の大多数に関わる、震災復興のある重要な問題点を抉り出している。失踪中のリーダーの行動を淡々と遠巻きに撮るだけでも、価値ある問題提起になると思うのだけれど。
ひょっとしたら、取材したけれど「撮れ高」を判断されて切られたのか、そもそもこのトピックは不要だと判断されたのかもしれない。画面に写ったものしか観ることができないので、真相は不明。
小ギレイな泣ける話にまとめたかったのかな。
ただ、この映画でFMみなさんが取り上げられたことによって初めて、あの9人の活躍と町の人たちの暮らしを知ることができた。そういう意味では、劇場に足を運ぶ価値はあると思う。
※当ブログ内の関連エントリー:
○梅村太郎/塚原一成[監督]『ガレキとラジオ』(2012年)のやらせが発覚したそうです。
○『ガレキとラジオ』やらせ問題「ラジオはドキュメンタリーにしにくい、絵にならない」:「QIC」第906回(ウェブラジオFMC、2014年3月9日放送分)
随時更新。被災地情報の取得等にお役立てください。
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