レヴュー:東日本大震災とラジオに関する書籍あれこれ
○レヴュー:東日本大震災とラジオに関する書籍あれこれ
則子 全部でなくてもいいわ。2冊でも3冊でも、アルバムを取って行きたいんです。家族の記録なんです。かけがえがないんです。
「洪水まえにわたしがどれほどすばらしい家をもっていたか、あなたがたには見当もつかないでしょうね。すべて自分でたてたのですよ。でも、またあたらしい家をたてますから、そのときはいつでもおいでください。歓迎しますよ。」
今回は、私が昨年読んだ東日本大震災とラジオに関する書籍のご紹介。
鈴木孝也『ラジオがつないだ命——FM石巻と東日本大震災』(河北新報出版センター、2012年)
鈴木孝也『ラジオがつないだ命——FM石巻と東日本大震災』
(河北新報出版センター、2012年)
ラジオ石巻専務による著書。
とにかく具体的に震災当時の様子を生々しく伝えるドキュメンタリー。
被災者が実名で登場して証言し、被災現場が地図で示され、被災状況が具に説明される。また、避難時の空腹・寒さ・孤立化の心配・家族の安否・二重ローンの不安……現地の人たちが当時実際に何を考え何を感じていたのかを知ることができる。
コミュニティー・メディアならではの、当事者しか知り得ない、虫の目で見た東日本大震災。
いつもそばにラジオ石巻
片瀬京子とラジオ福島『ラジオ福島の300日』(毎日新聞社、2012年)
片瀬京子とラジオ福島『ラジオ福島の300日』
(毎日新聞社、2012年)
2010年12月24日——会津地方に降り始めた大雪。ネット番組を優先したことで災害報道で遅れを取り、ラジオ福島は、現地メディアでありながら全国メディアに「敗北」を喫した。
2011年3月11日以降のラジオ福島の震災報道は、この経験を躓きの石としている。
共同通信および大株主の『福島民報』便りのニュース報道、情報網構築の遅れ。
「停電になっても、電池があればラジオは聴けます。ラジオは、災害に強いメディアです。何かあったら、ラジオ福島を聴いてください。役立つ情報をお届けします。」
リスナーに繰り返し伝えてきた言葉を嘘にするわけにはいかない。(p.29)
現場レベルの迅速かつ柔軟な判断、リスナーを信じたTwitterでの情報収集と発信——その後のラジオ福島の快進撃が、スピード感のある文体で再現されている。
何より、カヴァーに掲載されている、『福島民報』2011年3月12日付のラテ欄が全てを雄弁に語っている。
本の終盤では、福島から放送された「爆笑問題の日曜サンデー」(TBSラジオ、2011年8月28日(日)13:00-17:00)の様子もレポートされている。これを読むと、太田光は立派で勇気のある人だと思う。そして、被災者の人たちも知的で冷静に現実を見ようとしていて、同じく立派で勇気がある思う。
2011.3.11. 東日本大震災発生時のRFCラジオ福島の実況
荒蝦夷[編]『CDブック その時、ラジオだけが聴こえていた——3.11 IBCラジオが伝えた東日本大震災』(竹書房、2012年)
荒蝦夷[編]『CDブック その時、ラジオだけが聴こえていた——3.11 IBCラジオが伝えた東日本大震災』(竹書房、2012年)
三部構成で、時間軸に沿った震災直後のレポート、スタッフや関係者の証言集、座談会を収録。付属CDには、震災直後からの108時間生放送の一部が収録されている(39分30秒)。
なかでも、「Part 2 証言記録「東日本大震災とIBCラジオ」」が興味深い。
IBC技術部専任部長・沢村茂氏による証言「ラジオ送信所への燃料補給」が印象に残った。
電波を受けるラジオは停電しても電池があれば聴けるが、電波を出す送信所はそうはいかない。予備電源への切り替えや、発電機への燃料の補給も必要になる。
岩手県内に8つあるラジオ送信所に、沢村氏と部員の太田友一氏のふたりで予備燃料を運ぶ。
立入禁止になった道では「燃料切れで電波が止ったらお前たちのせいになるぞ」と検問の警察官を一喝し、18リットルの軽油タンクを背負って、岩や瓦礫で塞がった道を進む。
想像すれば当然のことながら、ラジオが災害に強いメディアと言われるのは、様ざまな人たちがそれぞれの持場を守っているからだと改めて知る。
東日本大震災 地震直後のIBCラジオ(岩手放送)
米村秀司『ラジオは君を救ったか?——大震災とコミュニティFM』(ラグーナ出版、2012年)
米村秀司『ラジオは君を救ったか?——大震災とコミュニティFM』(ラグーナ出版、2012年)
鹿児島シティエフエム専務による震災とコミュニティーFMに関する報告と考察。
内容は、東日本大震災とコミュニティーFM、コミュニティーFMの現状、コミュニティーFMと災害報道の今後、という三本柱。
先の大震災で被災しなかった立場で、コミュニティーFMの役割を考察している点が特徴的。
被災地入りした九州各地のコミュニティーFMパーソナリティーによる寄稿も掲載。
第四章「災害報道と鹿児島シティエフエム」では、防災の話題だけでなく、災害時の情報インフラとして機能するための下地である、地域への浸透、経営改善、事業展開など、地域ビジネスとしてのコミュニティーFMの現状も垣間見ることができて興味深い。
随時更新。被災地情報の取得等にお役立てください。
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