寺田寅彦「ラジオ・モンタージュ」(1931年)
○寺田寅彦「ラジオ・モンタージュ」(1931年)
先日、放送記念碑を訪れて以来、まだラジオがまだ新しいメディアであった時代の人びとの反応やラジオ論が気になって、ちょっと調べたりしている。
そんななか、寺田寅彦「ラジオ・モンタージュ」(1931年)という随筆に驚いた。
同作で寺田は、映画監督のフセヴォロド・プドーフキン(Всеволод Пудовкин 1893-1953)やセルゲイ・エイゼンシュテイン(Сергей Эйзенштейн 1898-1948)のモンタージュ理論に言及しつつ、これをラジオに応用できないかというアイディアについて考察している。
それはとにかくモンタージュ芸術技法は使用するメディアムが何であっても可能である。[……]そうだとすれば、ラジオによる音響放送の素材の適当なる取り合わせ、配列によって一種の芸術的モンタージュ放送を創作することが充分可能なわけであろう。
また、単に音声のモンタージュというだけでなく、ラジオ放送にこだわっている点も興味深い:
そう言えば、全部をレコードにして編集し、その編集の結果をまた一つづきのレコードとしてしまえば、結局ラジオの必要はなくなるのではないかという議論が持ち出されるであろう。それはある意味では実際そうであるが、しかし必ずしもそうばかりではない。第一に、蓄音機の存在にかかわらず音楽放送が行なわれている事実がこれに対する一つの答弁であるが、そればかりではない、もっと重要なことがある。現在同刻に他所で起こりつつある出来事の音響効果の同時放送中に、過去における別の場所の音的シーンを適当に插入あるいはオーヴァーラップさせ、あるいはまたフェード・イン、フェード・アウトさせることによって、現在のシーンの効果を支配し調節するということができるとすれば、それは蓄音機だけの場合にては決して有り得ない一つの現象を出現させることになるからである。
「4分33秒」"4'33""(1952年)などで知られるジョン・ケイジによる、ラジオを使った一連の作品を彷彿とさせる。
John Cage, "Imaginary Landscape No. 4" for 12 radios (1951)
Performed by students of Hunter College (NYC)
※指揮者の動き。一応、4分の4拍子なんですね。
John Cage, "Speech" (1955)
John Cage, "Radio Music" (1956)
ちなみに寺田は、前掲エッセイ内でラジオ・モンタージュ作品を「放送音画」と表現している。音声を視覚的イメージに見立てているという点で、ジョン・ケイジの "Imaginary Landscape" との奇妙な符合が興味深い。
とはいえ、寺田のアイディアがモンタージュ放送であるのに対して、ケイジは放送のモンタージュである点が異なる。
また、ケイジの場合は、複数のラジオ放送音源の共時的な(synchronic)偶発性のミクスチャーであるのに対して、寺田の場合は、放送中の音源に過去に録音された音源を挿入する(複数の時間軸が輻輳する)という点も異なる。もっとも、寺田寅彦の時代はNHKしかなかったから、ケイジみたいなことはできなかったしね。
寺田の話のラジオをレコードに置き換えれば、クラブDJっぽい感じもする。
○寺田寅彦 ラジオ・モンタージュ(青空文庫)
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