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朝霧さぎり『サヨナラ、ありがとう〜FMラジオ局の音が消える日〜』(近代映画社、2011年)

○朝霧さぎり『サヨナラ、ありがとう〜FMラジオ局の音が消える日〜』(近代映画社、2011年)

 

朝霧さぎり『サヨナラ、ありがとう〜FMラジオ局の音が消える日〜』(近代映画社、2011年)を読んだ。

半年以上前に出た本だけれど、つい最近知った。

FMラジオ局「レディオ1」終幕の舞台裏を、局でいちばん下っ端のADの視点から描いている小説。2010年9月30日に閉局したRADIO-i の実話に元に基づいたフィクション。

ライトノベル・ジュニア小説風の文体で書かれた127ページの短編で、とても読みやすい……でも実を言うと、私には文体がカジュアル過ぎて、慣れるのに少し時間がかかった。もう、オッサンか。

アルバイトAD「タカミー」こと高木みなみの日常と夢、「レディオ1」の閉局、閉局から5年後といった内容。夢に向ってまっすぐ疾走するタカミーの青春と、「レディオ1」の終幕がクロス・フェイドで描かれる。

登場人物も実在のモデルがいるようだ。RADIO-i のリスナーだった読者は、台詞の部分で具体的な声が頭に浮かぶのではないだろうか。リスナーじゃなかった人も、RADIO-i のウェブサイトは現在も閲覧可能なので、サイトの iJ(=RADIO-i の DJ)のプロフィールと対照させて愉しむことができる。

全体的には、ポジティヴな高木みなみの視点が全体を貫く青春小説だ。しかし、時どき他の登場人物の口から、

「いつ聞いても洋楽ばっかかかってっけど、聞いてる人いるの?」(p.9)

「東京じゃあるまいし、そんなにいるかなあ。今度アニメの曲流しなよ。リクエスト書いてやるから。へっへっへ♪」(p.10)

「…仲良しクラブじゃないんだ。放送局なんだヨ…」(p.18)

「レディオ1はとても居心地のいいところ。スタッフもクルーもみんなファミリー。日本で唯一の理想のFM放送を目指している夢多き場所。約束の地。だけど夢は夢のままであったほうが良かったのよ」(p.57)

といった辛辣な言葉が発せられたり、

「お前が何時から喋るか聞いてないが、昼なら1時間分のDJに払う金が浮く。夜中ならキー局から買う番組が30分程経費が浮く」

「いいことじゃないですか」

「DJの一人が1時間分の経費を削られたら、他のDJたちにも動揺が広がる。彼らの仲間意識は強い。こんな事ないと祈るが、お前への個人攻撃もあるかもしれない。何で彼らがそこまですると思う? ここが田舎だからだ。自分が食うパイの面積が小さくなるからだ。[……]」 (pp.39-40)

といったキナ臭い話も挿し挟まれている。

所どころにご都合主義でベタな展開、説明的な台詞、登場人物の造形が平板すぎる部分もあり、子どもっぽい話に感じる所もあるけれど、構成や話の展開はけっこう工夫してあって飽きさせない。みなみの理想のDJイトー・ダイヤモンドと当のイトー・ダイヤモンド自身の理想の話の部分は面白かった。

それに何と言っても、ラジオずきな人ならジーンとくる部分が何箇所かあり、特に、みなみのリスナー時代の視点が導入されて以降は共感が乗数的に増す。

ところで、本のどこにも著者紹介がなく、ネットを検索してもこの本以外の情報は何も出て来ない。元 iJ で、現在はMID-FM(名古屋市中区周辺 76.1MHz)FM LOVEAT(愛知県豊田市周辺 78.6MHz)他でDJを務めている佐野瑛厘のブログによると「著者は、閉局の前に実際にRADIO-iに数日間潜入取材していたらしい」とのこと。でもホントは、著者は中の人なんじゃないかと私は邪推している。

この本をラジオ・ドラマ化したら面白いいんじゃないかと思ったり。


RADIO-i 2010年9月30日
※閉局直前の放送
 

※参考リンク

RADIOi -Feel the waves,Soothe your mind.- 79.5MHz(公式サイト)
※更新停止、閲覧可能。

NAGOYARADIO.COM
※元iJなどが立ち上げたネット・ラジオ局。

「サヨナラ、ありがとう」〜FMラジオ局の音が消える日〜を読んで | 佐野瑛厘 | Eri's Blog
※元iJによるブログ記事。

名古屋のラジオ局を片っ端から見てきた(6+):RADIO-i(当ブログ内)

「サヨナラ、ありがとう〜FMラジオ局の音が消える日〜」 :: 私の回りの出来事
「サヨナラ、ありがとう」|ビビッドブルーなサンジくん
ちぎられた電線...本州で一番電波が飛んだFM局の末路 | TOPPY.NET(名古屋)


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コメント

この話を聞いた時 我々一般人ても動揺したぐらいですから業界人達の動揺はとんでもないものだったと思います これをドラマにするとしたらよほど局として自信と勇気のある局でしかできないかもしれませんね

投稿: よっちゃん | 2012年7月22日 (日) 10時29分

通りすがりの者です
ラジオ関係の本ですと,最近は

ラジオのすごい人たち: 今こそ聴きたい34人のパーソナリティ [単行本]
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%81%AE%E3%81%99%E3%81%94%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%9F%E3%81%A1-%E4%BB%8A%E3%81%93%E3%81%9D%E8%81%B4%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%8434%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3-%E8%B1%8A%E7%94%B0%E6%8B%93%E8%87%A3/dp/4757220766/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1343046351&sr=1-1


昭和40年男 Vol.14
http://www.crete.co.jp/s40otoko/

出ていて,なかなか興味深いです

本の話題と関係ないですが
第252回 せんだみつおのラジカントロプス2.0
http://blog.jorf.co.jp/radio/20_163/index.html

『せんだみつおのラジカントロプス2.0』(2012年6月10日)

2012年6月10日(日)深夜12時(24時)からの『せんだみつおのラジカントロプス2.0』のポッドキャスト版です。
せんだみつおの目を通して振り返る昭和芸能史。(1時間26分15秒)
昭和芸能史とありますが結構ラジオに言及されている部分があり
これまた興味深いです

投稿: 通りすがりの者です | 2012年7月23日 (月) 21時34分

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