年末に観た富田克也[監督]『サウダーヂ』(2010年)は噂通りにヤバかった。
○年末に観た富田克也[監督]『サウダーヂ』(2010年)は噂通りにヤバかった。
富田克也[監督]『サウダーヂ』(2010年)
AUDITORIUM shibuyaで観賞。
「菊地成孔の粋な夜電波」(TBSラジオ、2011年11月25日(金)20:00-22:00)で、菊地成孔が、富田克也[監督]『サウダーヂ』(2010年)をヤバいヤバいとしきりに褒めていて、先日3月9日にも菊地は、アカデミー賞のラインナップのなかにも『サウダーヂ』を超えるものはなかったと激賞していた。「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ、土21:30-24:30)の「ザ・シネマハスラー」年間ランキングでは1位に選ばれていた。
ラジオ馬鹿としては、ラジオでこれだけ褒めている映画なので観ざるを得ないと思い、年末に観てきた。
生々しくも乾いた空気
まず、スクリーンの中に充満している生々しいけれど妙に乾いた空気に既視感を憶えた。「あぁ 『シティ・オブ・ゴッド』 の感じだ」と思ったら、劇中でもフェルナンド・メイレレス[監督]『シティ・オブ・ゴッド』Cidade de Deus(2002年)に言及するシーンがあった。
乾いた空気といえば、先日第146回芥川賞を受賞した田中慎弥が記者会見で、下関はどんな街かと訊かれて「乾いた街です」と答えていた。ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)も「郊外の生活は無味乾燥だった」(life in the suburbs was arid)と言っていた。
都会生まれのインテリ団塊世代には、田舎は晴耕雨読の夢を叶える老後の新天地、憧れの桃源郷に見えるのかもしれないけれど、田舎で生まれ育った者にとっては、必ずしも楽園とは限らない。
映画の登場人物たちは、国道20号線一本で東京とつながった甲府で暮らしつつ、地の呪いに囚われ身動きが取れず、ここではない何処かへの郷愁に身を焦がす。
階級・人種・ジェンダー
精司とその妻の暮らしぶりやキャラクターに頭がジンジンした。下層労働者階級の夫、セレブ的生活に分不相応な憧れをもっている妻。私が子どもの頃の両親そのものじゃないか!
言語を分たれ、全地の表面に散っていった人びとが、グローバル化の悪戯と企業国家のエゴイズムで、ひとつの土地に再び集う。
国際競争力の相対的低下に苦慮した日本の大企業は、外国人の不法就労者を低賃金で雇用する町工場を指をくわえて横目に見ていた。ついに大企業は政府に泣きつき、製造業に外国人労働者を受け入れさせた。安く使える外国人なら誰でも良かったが、社会の抵抗をおそれて日系人に限定した(日系人に限定していなければ、ほとんどが中国人になっていたはずだと思うのだけれど)。日系人とはいえど日本人と全く異なる言語・文化・生活習慣をもつ彼らが負担になってくると、政府は満を持して労働者派遣法を改め、賃金水準を低く保ったまま外国人労働者を日本人に取り替えることに成功した。その結果、日系ブラジル人も就業に苦慮するに至っている。映画の中で、ブラジル人家族は食卓を囲みつつ、仕事がなければブラジルに帰らなければならないと嘆く。
映画の中に、日本人とブラジル人それぞれのヒップ・ホップ・クルーが登場するけれど、同じような階級に属し、ヒップ・ホップという共通言語を持ちながら、彼らの間の和解の契機は常に既に断たれている。
詳細は割愛するが、この映画に登場する女たちのほとんどは、極めてジェンダー化された職業ばかりに就いているという点も興味深い。
消えた80年代の光
ジャーナリストの津田大介が、2011年12月か2012年1月の「文化系トークラジオ Life」(TBSラジオ)の、本編だったか外伝だったかで、劇中でかかるBOØWYの「わがままジュリエット」と、曲がかかるタイミングが最高だと言っていた。
BOØWY「わがままジュリエット」(1986年)
BOØWYの「わがままジュリエット」は1986年の曲。おそらく精司の青春時代の曲だろう。BOØWYの曲が街に流れていた1980年代は、商店街の明かりとともに消えてしまったのだ。
精司にとってBOØWYに該るものは、UFO-Kにとってはヒップ・ホップかもしれない。UFO-Kが精司の齢になったとき、街にヒップ・ホップは鳴り響いているだろうか。
蛇足。あの、マリファナのシーンがヤバすぎる。
絶対観たほうがいい映画だよ。
富田克也[監督]『サウダーヂ』(2010年)予告編
川島雄三[監督]『幕末太陽傳』(1947年)
川島雄三[監督]『幕末太陽傳』(1947年)デジタル修復版
テアトル新宿で観賞。
実は、同じ日に『サウダーヂ』を観る前に、テアトル新宿で川島雄三[監督]『幕末太陽傳』(1947年)デジタル修復版と、新宿武蔵野館でヴィットリオ・デ・シーカ[監督]『ひまわり』I Girasoli(1970年)ニュープリント&デジタルリマスター版も観た。
川島雄三[監督]『幕末太陽傳』(1947年)デジタル修復版予告編
台詞が早口で聴き取りづらい部分もあったけれど、『幕末太陽傳』は素晴らしかった。見た目は三枚目なのに、フランキー堺の危険なセクシーさに驚嘆。今、ああいう俳優はひとりもいない。
ちなみに、小沢昭一先生もご出演。今と見た目の雰囲気が全然ちがっていて面白い。
1940年代の日本映画も観とかないといけないなぁ。
ヴィットリオ・デ・シーカ[監督]『ひまわり』I Girasoli(1970年)
ヴィットリオ・デ・シーカ[監督]『ひまわり』(1970年)
新宿武蔵野館で観賞。
ヴィットリオ・デ・シーカ[監督]『ひまわり』I Girasoli(1970年)
ニュープリント&デジタルリマスター版予告編
ヴィットリオ・デ・シーカ[監督]『ひまわり』I Girasoli(1970年)は、面白かったけれど、ややまったりした時間の流れに支配されている映画だった。他方、現代の映画といえば、演出と特殊効果が高度に発達した反面、空疎な内容を劇的に見せることが可能になっている。
『ひまわり』は、今観ると粗っぽいところもあるけれど、真に劇的で見応えがあった。
例のソ連の原子力発電所のシーンも確認した。
マルチェロ・マストロヤンニがソフィア・ローレンのお乳をやたらとさわるのが気になった。
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