長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)はラジオ映画だ!(1)
○長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)はラジオ映画だ!(1)
しばらく前にスウェーデンで、31歳の男が自宅アパートのキッチンで原子炉を作ろうとしてお縄を頂戴し、話題になった:
このニュースを聞いて、長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)を想い出した人も多いだろう。
長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)
このジャケットあんまり好きじゃないなぁ。
中学校の理科教師・城戸誠(沢田研二)が、東海村原子力発電所に侵入してプルトニウムを盗み出し、自宅アパートで原子爆弾を完成させ、8つの核保有国に続く男「9番」を名乗り、原爆をネタに日本政府を脅迫するという話。
長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)予告編
※劇中で流れる山下警部のテーマ「YAMASHITA」は
庵野秀明[監督]『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)
の劇中でも使われているらしい。
城戸は、丸の内警察署捜査一課・山下満州男警部(菅原文太)を交渉相手に指名し、ラジオDJ「ゼロ」こと沢井零子(池上季実子)を巻き込みつつ、原子爆弾をめぐる攻防戦を警察相手に繰り広げる。
荒唐無稽でご都合主義な展開も見られ、登場人物の尋常ならぬ身体能力や生命力に失笑せざるを得ないシーンもあるけれど、それでも、2011年現在でも観賞に堪える圧倒的な熱量をもった映画らしい映画。邦画屈指の迫力を誇るカー・チェイスも見所(このシーンの音楽がまた秀逸)。
沢田研二はセクシーで、池上季実子は美しく、菅原文太は男前だ。公開当時の池上季実子がまだ二十歳と知って二度おどろく。それに比べて、今の二十歳って、本当に子どもだね。
池上季実子扮する DJ「ゼロ」こと沢井零子
この映画、現代文明の象徴をめぐる攻防戦という点は佐藤純弥[監督]『新幹線大爆破』(1975年)と共通しているが、『新幹線大爆破』では犯人の動機が判りやすい階級闘争であるのに対して、『太陽を盗んだ男』では実存に関わる話になっている。
まず、昼間の城戸は抜け殻のように惰眠を貪る人物だという点が象徴的。漠然とした苛立ちを抱えつつも、それをぶつける対象も、雲散させる捌け口もない。
原子爆弾で政府を脅迫した城戸は、成り行きで思いついた野球のナイター中継の延長を勝ち取るものの、その後が続かない。ゼロのラジオ番組に電話し、「何したいかわかんないわけよ、自分で」と原爆の使い途を募る。
結局は、「満州男」の名に象徴される前世代の人間である山下警部の迷いのなさに気圧されて、城戸の破壊衝動は「とっくに死んでいる」街と自分自身に向かう。
なかなかポストモダン的なモチーフ。
ともあれ、太陽に近づき過ぎたイーカロスの運命は想像に難くない。あの終わり方と、ラスト・シーンの城戸の表情、好きだなぁ。
公開当時は、作品としての評価は高かったものの興行的にはそれほど成功せず、その結果、カルト映画化したらしい。
『太陽を盗んだ男』はラジオ映画だ!
『太陽を盗んだ男』のあらすじを説明する際、多くの場合、ラジオに関する部分が省略されがちだ。城戸がラジオ番組に電話出演し、ゼロと出会うことで、事件が劇場化すると同時に、恋愛の要素が加味され、話がもう一段膨らみを帯びる。
この映画とラジオといえば、映画を公開当時に観たかたのブログによると:
TBSラジオ「パック・イン・ミュージック」火曜深夜のパーソナリティ、林(ミドリブタ)美雄が惚れ込んで番組で盛んにバックアップしていたのを思い出す。
実は、林美雄アナは劇中にテレビ・ニュースのアナウンサーとして登場する。また、DJゼロが、劇中で担当している「ダメなあなたとダメな私の共犯放送」という深夜番組内で「ゼロのブタブタしい想像によれば」などと発言したり、新しく昼に担当することになった番組のタイトルが「ゼロのブタブタジョッキー」だったり、林美雄へのオマージュが散見される。「パック」リスナーはきっと劇場でニンマリしたんだろうなぁ。
『太陽を盗んだ男』に登場するラジオ受信機
ラジオのモチーフを含んだ映画なので、当然、ラジオ受信機も登場する。
まずは、城戸のラジオ。
「ゼロのブタブタジョッキー」の公開生放送の現場に現れた城戸は右手にラジオを携えている。イヤ・フォーンではなく、スピーカーに直接耳を当てて聴きながら登場。ワイルドだ。
この受信機の特徴は、よくある携帯ラジオに比べると縦長で厚みがある。角度によってはロッド・アンテナが見えるのでFMが受信できる機種だろう(短波の可能性もあるけどね)。
一見すると SONY TFM-4500 に似たフォルムだが、ダイヤルの形状や窓の配置が異なる。近い型番をひとつづつ検索していくと、SONY TFM-4550 と判明。写真は下記ブログで見ることができる:
次は山下警部のラジオ。
といっても、彼の私物ではなく、警察署内にあるラジオだ。このラジオで「ゼロのブタブタジョッキー」をウォッチしている。
城戸にビーバーエアコンを薦める山下警部とラジオ
ロッド・アンテナがあるのでFMが受信できるタイプで、前面のパネルの感じから短波も受信できるタイプと思われる。
城戸のラジオがSONY製だったので、まずはSONYから調べてみた(大人の事情で同一メーカー製なのではないかと思ったわけです)。見当がつかないので、発売年代から調べてみたが見つからず、すこし遡って1960年代のラジオで絞り込むと SONY TFM-2000F と判明。1969年発売のラジオ。つまり、劇中では10年前に発売されたラジオということになる。下記ブログによると、「当時の定価25,800円は、大卒の初任給より高く、誰もが気軽に手に入れることのできるラジオではなかったようだ」:
実は、今年のお盆に「ゼロのブタブタジョッキー」の公開放送の現場に行ってきたので、その話は追々。
他に想い出したこと
- 城戸は新宿周辺に住んでいる設定で、劇中に何度も新宿のシーンが出てくる。浅草キッド玉袋筋太郎の自伝的小説『新宿スペースインベーダー——昭和少年凸凹伝』(武田ランダムハウスジャパン、2011年)の舞台は、1967年生まれの赤江少年(玉袋筋太郎)が小学5年生から6年生になるまでの新宿。即ち、1978〜79年の新宿だ。『太陽を盗んだ男』と時空間を共有していると思って両作を観賞すると、2度愉しめる。
- ちなみに、『太陽を盗んだ男』は、水道橋博士のライフタイム・ベスト映画らしい。
- エンド・ロールに「森達也」「香山リカ」の名が出てくるのだけれど、あの森達也と香山リカなのかな?
- 劇中には、新宿の他にも、渋谷をはじめ、1970年代後半の東京の街並が随所に登場する。当時と今を比べたりすると、街歩きずきの人も愉しめる映画。でも、秋葉原のラジオセンターのパーツ屋は当時も今もほとんど変っていない。
変装した城戸に拳銃を奪われる杉下右京巡査(?)
○長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)はラジオ映画だ!(2):劇中のラジオ公開生放送の現場に行ってみた。
○長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)はラジオ映画だ!(3):続・劇中の公開生放送の現場に行ってみた。
○長谷川和彦[監督]『太陽を盗んだ男』(1979年)はラジオ映画だ!(4):完・劇中の公開生放送の現場に行ってみた。

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コメント
確か高校時代にテレビの深夜映画で見ました。当時のフュージョン小僧としては、池上季実子演じるDJがタカナカの「スイート・アグネス」を掛けるシーンでグッと来た覚えがあります。単純に楽しめる娯楽作だと思うのですが、なぜか「カルト化」したのは、もしかするとその筋からの”圧力”があったのかもしれませんね。そう考えるとテレビで見たのは実は記憶違いで、ビデオで見たのかもしれません。
それにしても、どんな話題でもラジオに結びつけてしまうMasaruSさんのキョーレツな「ラジオ愛」には、毎度頭が下がる思いでございます(笑)。
投稿: やきとり | 2011年10月 1日 (土) 22時24分
トラックバック、ありがとうございます。
「太陽を盗んだ男」になると饒舌になってしまいます。
久しぶりにTV放映された際の感想も読んでみてください。
http://hwbb.gyao.ne.jp/k-suke-pg/movie0006.htm
投稿: kei | 2011年10月 3日 (月) 23時50分
太陽を盗んだ男大好きです!過去レンタルビデオで二回借りて観て、DVDも買いましたよ。
投稿: タカユキ | 2013年1月23日 (水) 19時22分