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モブ・ノリオ『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』(文藝春秋、2009年)

○モブ・ノリオ『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』(文藝春秋、2009年)

 

昨日、息抜きにYouTubeを見ていたら、福島県郡山市でやっている「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」(郡山市・磐梯熱海スポーツパーク、2011年9月17日)というロック・フェスが配信中というバナーが出ていたのでちょっと見てみた。内田裕也のステージの最中だった。9月14日〜19日にかけて福島県を横断して行われているライヴのうちの1日:


LIVE福島 風とロックSUPER野馬追
 

ナンダカンダでカッコよかったです、ロックでした、ハイ。

それをキッカケに想い出した、モブ・ノリオ『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』(文藝春秋、2009年)という本をご紹介。ラジオな本です。

この本、1冊の書籍ではあるものの、実は、モブ・ノリオの書き下ろし小説「ゲットー・ミュージック」と、内田裕也による対談集「内田裕也のロックン・トーク」を、愛すべき強引さで合本した一冊。


愛すべき強引さ
 

『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』表紙
今はなきNYのWTCツイン・タワーを背にしたハドソン川
 

『JOHNNY TOO BAD 内田裕也』裏表紙
もしや、これは……?
 

滝田洋二郎[監督]
『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年)

ハイ、コレでした。
 

それでは、本題:

モブ・ノリオ「ゲットー・ミュージック」

ラジオの海賊放送を舞台にした小説。海賊放送のDJの一人称——厳密には、ひとりしゃべりの放送を文章化した、読むラジオのスタイルで話は進む。

『介護入門』(文藝春秋、2004年)から5年を経て、芥川賞受賞後初の書き下ろし作品。もともとは、編集者から内田裕也の評伝を執筆するようもちかけられたらしい。でもこの本は、小説であると同時に、ちゃんと内田裕也の評伝にもなっていて、かつモブ・ノリオの個人史にもなっている。

冒頭は8ページに渡るエピグラフで始まる。映画・小説・現代思想など様ざまなジャンルから、広い意味でロックな引用が次つぎと続く。その後、DJが次のように語り始める:

悪魔に魂売り渡し、偽の笑顔で、Let's Get FUCK——NO TIME TO LOSE だ、××之助、ア、ア、アー・ユウ・エクスペリエンスト? 地上から消えかかってる耕し方について、俺は、私は、僕は、自分は、記憶を残しておかなければならない——そういう仕事を与えられた「口」(MOUTH)なのだ、「喉」(THROAT)なのだ、ラジオ・ジャンキー諸君。(p.17)

この言語感覚にノれなかった人は、ここでページを閉じてしまうかもしれない。でも、海賊放送がオレをdrive、なぜならオレは radio tribe。

この後、ライヴ感溢れる「生放送」が続く。当のDJが曲の途中で眠ってしまったりする生々しさ(実は、これが最後に効いてくるのだけれど):

あー、あー、あー……、放送事故発生、放送事故発生……。ええー、『パンゲア』を聴きながら、気持ちよく眠りつづけていました。ずーっと、レコード針が、レコードの溝の終点を繰り返しなぞりっぱなしの、シューッ……プチッ……シューッ……プチッ……という、愛想のない音ばかりをお聞かせしてしまったかもしれません。失礼いたしました。放送を再開します。(p.63)


Miles Davis, "Gondwana", Pangea (1975)

最後まで読むと、実はこの小説は二重構造になっていて、「ゲットー・ミュージック」自体がある意味でゲットー化されている。

いまや本当のことを自由に語ろうと思えば、海賊放送しか道はないのかなぁ。でもその声は結局届かないのかなぁと、複雑な気持ち。

ゲットーから蜂起せよ!

「内田裕也のロックン・トーク」

内田裕也が『平凡パンチ』(平凡出版→マガジンハウス)で1986年3月24日号から11月3日号にかけて連載した対談を1冊にまとめたもの。初書籍化とのこと。

対談相手は、カール・ルイス、野坂昭如、赤尾敏、岡本太郎などなど多岐にわたっている。武谷三男(原子物理学者)との対談は、3.11後に読むと非常にアクチュアル(以下、肩書は当時のもの):

  • 中野洋(国鉄動力車労働組合千葉地方本部委員長)
  • 野村秋介(新右翼活動家)
  • 堤 清二(西武セゾングループ代表)
  • 田中光四郎(大日本武徳会会長)
  • カール・ルイス(陸上競技選手)
  • 野坂昭如(作家)
  • 金山克己(中核派幹部)
  • 中上健次(作家)
  • 小林楠扶(日本青年社会長)
  • 武谷三男(原子物理学者)
  • 赤尾 敏(大日本愛国党総裁)
  • スパイク・リー(映画監督)
  • 岡本太郎(画家・彫刻家)
  • 立花 隆(ジャーナリスト)
  • 徳田虎雄(医療法人徳洲会理事長)
  • 荒井将敬(衆議院議員)
  • 佐藤太治(ライオンズ石油社長)
  • 武智鉄二(歌舞伎演出家・映画監督)
  • 山田詠美(作家)
  • 田川誠一(衆議院議員・新自由クラブ代表)
  • 戸塚 宏(戸塚ヨットスクール校長)
  • 尹興吉(作家)
  • アンドレ・金(ファッション・デザイナー)
  • 安聖基(俳優)
  • 黒田征太郎(イラストレーター)

今や世間からはロックン・ローラーというよりは、ロック道化扱いされて面白可笑しくいじられている感が拭えない内田裕也だけれど、どこか憎めないところがあり、彼を悪し様に揶揄する人を見るとカチンとくる。

この本の内田は、極めて繊細で、極めて知的だ。たぶん今でもそう変ってはいないはずだ。時に相手に気圧されたり、圧し返したり、ギクシャクしたり、対談の様子が生々しく再現されている。この本を読んで、ますます好きになった。

あの事件以来、内田裕也は評判を落としているようだ。でも、ロックは自由な音楽のはず。ロックはいつも全ての人間の業を肯定するものであってほしいし。それでこそ自由。人の悪口を言うことに血道を上げたり、人の欠点を探すことに鵜の目鷹の目な人は、いつも何かに囚われている人だ。魂が自由じゃないゼ!

ロックン・ロール! ラヴ&ピース。


内田裕也&1815 Rock'n Roll Band
「コミック雑誌なんかいらない」(1973年)

 

※当ブログ内の関連エントリー:

ラジオな一曲(34):内田裕也&1815 Rock'n Roll Band「恋の大穴」(1973年)

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