藤井青銅『ラジオにもほどがある』(小学館文庫、2011年)
○藤井青銅『ラジオにもほどがある』(小学館文庫、2011年)
放送作家・藤井青銅による、ラジオ・パーソナリティーたちとのコラボレイションの記録。
私が興味を惹かれるのは、最初のふたつの章で伊集院を、最終章と巻末対談でオードリーを大々的にフィーチャーしている点。そこを中心にレヴュー。
1 伊集院光にアドバイスしたり、辻仁成にエラソーにしたり…
「激突!あごはずしショー」(ニッポン放送、1987年10月〜1988年3月、土20:00-21:00)で、ギャグオペラ歌手として登場した伊集院のトークセンスを買った藤井と安岡喜郎ディレクターが、「この若者をなんとかしてやりたい」という思いで伊集院をパーソナリティーに育て上げてゆく過程が詳しく述べられている。
伊集院がもってきたネタを藤井が膨らませてフリートークにつくり上げてゆく話がおもしろい。
「今日はどんな話するの?」
「歯医者に行ってきましてね」
「へえ、歯が痛いの?」
「ええ……」
と彼は歯医者に行った話を始めた。
「その歯医者の待合室がですね…」
「ちょっと待って。それは都心の歯医者? それともキミんちの近所の住宅街の歯医者?」
「住宅街です。近所なんですよ。…で、その待合室で…」
「ちょっと待って。そこ流行ってる医者なの?」
「ま、そこそこ流行ってましたね」
「じゃ、待合室に他に患者がいた?」
「いましたね。で、しばらく待たされて…」
「ちょっと待って。待合室にいる他の患者って子ども、老人?」[……]
「あっ……」
「どうしたの?」
「さっきから藤井さんが聞いていること、俺が先に言わなきゃいけないんですね」
この章に限らず、随所にこのような話がちりばめられている。ネットラジオをやっている人の参考にもなりそう。日常会話にも役立ちそう。
2 芳賀ゆいを創ったり、古館伊知郎の証言をもらったり…
「芳賀ゆい」とは、「伊集院光のオールナイトニッポン」(ニッポン放送、1988年10月〜1990年3月28日、水27:00-29:00;1990年4月6日〜9月28日、金27:00-29:00)で誕生したヴァーチャル・アイドル。伊集院のアイディアとリスナーからの投稿で架空のアイドルのプロフィールを創ってゆく企画。後に、握手会・写真集発売・CDデヴューまで果たし、「オールナイトニッポン」のパーソナリティーも務めた。
私は、芳賀ゆいについてはリアルタイムでは聴いていないし、後のち話として知った程度。この章では、芳賀ゆい誕生から消失までの過程をかなり詳しく追っていて参考になった。
芳賀ゆいの歌、初めて聴いた:
芳賀ゆい「星空のパスポート」(1990年)
作詞:奥田民生 作曲:生福 編曲:小西康陽
芳賀ゆい「・・・好きです 」(1990年)
作詞:伊集院光 作曲・編曲:小西康陽

芳賀ゆい写真集『う・そ・つ・き』
(ニッポン放送出版、1990年)
6 オードリーと出会ったり、見知らぬ作家x氏にエールを送ったり…
オードリーが、M-1グランプリ2008で敗者復活選から準優勝して大ブレイクするところから、「オールナイトニッポン」(ニッポン放送、土25:00-27:00)を担当するまでの話。
オードリーのラジオに関しては、M-1でのブレイクから「オードリーのシャンプーおじさん」(文化放送、水21:30-22:00)のあいだに、若林正恭ひとりで担当した「フリートーカー・ジャック」(ラジオ日本、火26:30-27:00)という番組があったことを初めて知った。
残念ながら現在は番組サイトからは聴取できないものの、iTunes で有料配信されているらしい。
ネタでブレイクした若手芸人が、一発芸で使い捨てにされないようにフリートークの力をつけさせようと企画された番組とか。藤井の親心。ひと組5分のフリートークで構成される30分番組らしい。
巻末対談 ラジオはアウトレット 藤井青銅×オードリー
ここがいちばんおもしろかったかも。名言連発:
若林:それから、日常生活ネタっていうか、自分にとっていやなことや、恥ずかしいこともネタになるんだ、ということを教えてもらったんですよね。そう考えたら、ある意味無敵じゃないですか。 (p.273)
若林:でもホント、ラジオって空母みたいのから飛び立っていって、また戻ってくるって感じがありますね。(p.283)
春日:ラジオで好きになった人とかタレントさんって、嫌いになることはほぼないくらいの感じですよね。(p.285)
オードリーがショーパブを研鑽の場に選んだ理由を若林が語っていて、これがシビレる。こんなの聞いたら好きになってしまうじゃないか:
若林:でも、[吉本芸人は自前の小屋で毎日舞台に立てるのに対して]東京の芸人にはそういう場所がない。そこで、どうやったらいっぱいステージに立てるかを考えて、「ショーパブだ」と思ったんですよ。あそこなら、一ケ月に十四回は立てる。その他に普段のライブが四〜五回あるから、足して月に二十回でしょ。ということは一年で二四〇回。
[……]
ということは、俺らは一年で他のコンビの五年分ステージでがんばれるってことでしょ。これだけやれば、面白い漫才ができるんじゃないかって。
[……]
同じ頃、同じようなことを考えて、ステージの数を増やすために「寄席」を選んだのが、ナイツだったんですよ。(pp.278-279)
あと、『オードリーのオールナイトニッポン』DVD(2010年)を観たとき、春日俊彰はきっと相当なラジオずきにちがいないと思ったのだけれど、ヤッパリそうだった:
若林:[……]それでまた彼(=春日)は、完全なるラジオ好きっていうか、ナイナイさんとか伊集院さんとかずっと聞いていて。高校の部室でナイナイさんの『オールナイトニッポン』の録音したテープをかけてたとか。[……](p.280)
ARAKAWA RAP BROTHERS のCDも買ったらしいよ(p.267)。
ARAKAWA RAP BROTHERS「アナーキー・イン・AK」(1992年)
電気グルーヴ「MUD EBIS」のあと、0:30ぐらいから。
ピエール瀧がけっこう男前。
藤井青銅『ラジオにもほどがある』、ラジオずきなら買いだと思う。おもしろい。
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