山賀博之[監督]『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)
○山賀博之[監督]『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)
極超短波のラジオなんか、誰が聴くんだよ?
シロツグ・ラーダット
子供の頃、たぶん「金曜ロードショー」(日本テレビ)かなにかで、山賀博之[監督]『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)というアニメ映画を観た憶えがある。
とはいえ、記憶しているのは、主人公が物乞いたちの前に棒状の硬貨を放り投げるシーンと、主人公による終盤のモノローグのみ。それでも強い印象を受けた。
どんな内容だったか長年気になっていたのでDVD自体はずいぶん前に買っていた。連休中にやっと観た。
すばらしい!
ストーリーはこんな感じ——水軍のジェット機パイロットに憧れていたシロツグ・ラーダットは、自身の凡庸さ故に夢破れる。代りに、非エリート集団として揶揄される王立宇宙軍に入隊するが、モラトリアムな生活を送っている。ふとしたきっかけで、人類初の有人人工衛星の搭乗員に志願するが……。
歴史的にも地理的にも極めて架空性の強い設定だが、執拗な細部の描き込みがリアリティーを担保していて、不思議な既視感すら感じる。文化的にはあらゆるものが共存する異種混淆的な社会。ただし、グノォム博士の「何だお前は。工業を馬鹿にするのか? 工業が市民を平等にしたんだぞ。集中する資産を広げたんだよ」という言葉から、精神史的には20世紀初頭を彷彿とさせる。
王立宇宙軍での生活は、軍隊のそれというよりも大学のサークルやゼミのそれにも見える。メジャーを向こうに大作アニメで勝負を仕掛ける制作スタジオを非エリートの宇宙軍に仮託した自画像とも推測できる。
白眉は、人工衛星をめぐる王国と共和国の交戦と同時進行する打ち上げシーン。カウントダウンで高まる緊張が、打ち上げの瞬間に一気に解放される。交戦する両軍は、敵味方問わず、煌めきながら宇宙へ飛翔するロケットの崇高さに陶然とし、人知の彼岸を垣間見る。
シロツグは、敬虔なリイクニ・ノンデライコとの出会いを通じて祈りを知り、将軍との邂逅により歴史を知った。地上にいるときはお仕着せの台詞も覚束なかったシロツグは、宇宙空間から極超短波のラジオ放送を通じて自分の言葉で地上に語りかける:
地上でこの放送聴いている人、いますか?
私は人類初の宇宙飛行士です。たった今、人間は初めて星の世界へ足を踏み入れました。
海や山がそうであったように、かつて神の領域だったこの空間も、これからは、人間の活動の舞台として、いつでも来れる下らない場所となるでしょう。
地上を汚し、空を汚し、さらに新しい土地を求めて宇宙へ出て行く。人類の領域はどこまで広がることが許されているのでしょうか?
どうか、この放送を聴いている人、お願いです。どのような方法でも構いません、人間がここへ到達したことに感謝の祈りを捧げて下さい。
どうか、お赦しと憐れみを。我々の進む先に暗闇を置かないで下さい。罪深い歴史のその果てにも、揺るぎないひとつの星を与えておいて下さい。
敵と味方、地を這う祈りと宙飛ぶ科学が、人工衛星の打ち上げにより止揚され、幸福な和解の可能性が提示される。ただし、最後の叙事詩的シークエンスには、火の呪いの不穏さがつきまとっている。
山賀博之[監督]『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)
現在、極東のある島国の北東海岸では、自然災害を契機に、科学と人間が戦争中——厳密には、企業国家の権力エリートと民衆との内戦:
国家形態に関わる諸結果としてのしかかる死の恒常的な危険。つまり「原子力国家」は原子力を、恐かつの基本的な源泉に、より脱構造化された命令権力を正当と認めるための土台とするのである。[……]
[……]レーニンが「ソヴェートと蒸気機関」「ソヴェートと電化」をいっしょにして考えることができたのは全く古きよき時代であった! しかし今はちがう。この調和と両立はもはやみとめられない。今では資本たる蒸気機関は我々のほうにむかって突進しているのである。
Dal pericolo di morte sempre incombente agli effetti relativi alla forma-Stato: lo "Stato nucleare" fa dell'energia nucleare il ricatto fondamentale, la base dalla quale legittimare la vigenza del comando più destrutturato. [...]
[...] Bei tempi, bei tempi davvero quando Lenin poteva pensare insieme "Soviet e locomotive", "Soviet ed elettrificazione"! No, qui coerenza e compatibilità non si danno più. Qui il capitale, la locomotiva ce l'ha lanciata contro.
アントニオ・ネグリ(小倉利丸[訳]を一部改)
「支配とサボタージュ」(1979年)
※参考
○オネアミスの翼
※岡田斗司夫による『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の話。
※当ブログ内の関連エントリー
○池袋のテアトルダイヤが2011年5月29日(日)で閉館、クロージング特集で27日(金)に『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を上映。

随時更新。被災地情報の取得・安否確認等にお役立てください。
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