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書き起こし(1):『息もできない』ヤン・イクチュン監督×ライムスター宇多丸 緊急スペシャル対談

○書き起こし(1):『息もできない』ヤン・イクチュン監督×ライムスター宇多丸 緊急スペシャル対談


 

「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ、2011年2月12日(土)21:30-24:30)で、映画『息もできない』똥파리(2008年)の監督ヤン・イクチュンに宇多丸がインタヴューを行った。

息もできない(日本語公式サイト)

TBS RADIO 特集リスト2011! (ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)
※上記ページの「2月12日「ヤン・イクチュン監督と緊急スペシャル対談」」をお聴き下さい。

TBS RADIO 映画博徒の生き様が一目瞭然!ハスリングの記録・2010年  (ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)
※上記ページの「4月10日息もできない」で、宇多丸による劇評を聴くことができます。

スゴく愉しみだったし、実際聴いてみて興奮したワ〜。

近ぢかポッドキャスト配信も開始されると思うけれど、書き起こししてみました。切りのいいところまでできたら順次公開していきます。

クレームを受けたら、その時点で削除&終了しますので悪しからず。


ヤン・イクチュン[監督]『息もできない』(2008年)予告編
2010年日本公開
 

息もできないクソ蝿

ライムスター宇多丸 はじめまして。

ヤン・イクチュン [日本語で]はじめまして(笑)。

宇多丸 はい、じゃぁ、ということで、じゃぁ、さっそく本題に入らせて頂きたいんですが、とにかく、あのぅ、日本でここにきてさらに高評価で、例えば、『キネマ旬報』っていう日本で一番権威がある映画雑誌で外国映画部門1位とか、えぇ、まぁ、それも含めて、僕がこのラジオ番組でやってる映画評のコーナーでもホントに、あのぅ、高く評価させて頂いて、たぶんリスナーの中で今年投票させたら1番だったんじゃないかと思うんですね。そのくらい人気なんですけど、この日本での高評価っていうのはどういうふうに感じられます?

ヤン・イクチュン ホントに素晴らしい映画のようですね(笑)。

宇多丸 (笑)やっぱり、ちょっとこう、ここまで高評価が急に、ってのはチョッとビックリって感じですか?

ヤン・イクチュン 韓国と映画の上映システムが違いますから、すぐ韓国と日本と比べて、日本でってことは言えないと思うんですけど、韓国の場合だと長くても2か月位で上映が終ってしまったんですけども、日本の場合はどれ位になるんでしょうか、1年近く上映し続けてっていうことで、私はこの『息もできない』っていう映画の流通期間っていうんですか、それはもう終ったかなって思ってたんですけど、それでもまだ日本で見て頂けるっていうことで、それが面白いなぁっていうのもあるし、それがすごく感謝してるんだっていう部分もあります。

この映画のシナリオを書いたのが、確か2006年の5月から8月位に書いたんですね、今考えても、今2011年2月じゃないですか? この映画が完成したのが2008年の9月なんですけども、もう、それだけ長い時間かかっている。ですからもう、この映画は自分が撮ったのだということも忘れているところもあって、今目の前にDVDパッケージありますけど、「あれ、これオレかな?」「オレ、演技したのかな?」って思うこともあるんですよ。ですから喩えてみれば、すごい友人なんだけど、その友人を自分のほうは「もういいじゃん」と思ってるけど、友人のほうから「どうかオレを忘れないでくれ」っていうふうに言われているような、そんな不思議な気持ちもします。

宇多丸 なるほど。日本で、スゴく良質なというか、いい映画ファンもこの映画が大好きになったというか、受け入れやすかった理由のひとつに、タイトルが、日本語版のタイトルが『息もできない』、英語が Breathless ってなってますけど、まぁ、もとのタイトルは『トンパリ』(똥파리)ですか? その、「ウンコ蝿」ってことなんですよね? この、やっぱり、タイトルが、ちょっとこうソフトになっているっていうのが、すごく受け入れやすい要因だったかなとも思うんですけど、でもホントはやっぱり、「ウンコ蝿」「トンパリ」ってとこには——

ヤン・イクチュン (笑)

宇多丸 言うたびに笑っちゃうけど、あのぅ、こだわりがあったんじゃないかなと思うんですけど。

ヤン・イクチュン 韓国語の元の題名は『クソ蝿』って言うんですけど、その「クソ蝿」っていう言葉でイメージする意味は、韓国でも日本人でも同じだと思うんですね。それは社会的にアウトサイダーでありますとか、中心から排除された人たちを私たちの父母やおじいさん・おばあさんの世代の人たちは「クソ蝿みたいやヤツ」っていう風に使っていたんですね。

宇多丸 うん。

ヤン・イクチュン で、私はこのシナリオを書くときに、まずシナリオの内容よりも先にまず『クソ蝿』『トンパリ』っていうのが浮かんだんです。題名を付けて、それから中味を書いていったんですけども、英語の題名が Breathless ですね。私、英語はできないので、これ友人が付けてくれたんですけど、私、"Breathless" って意味が解んなくて、訊いたら、「息もできない」「息もつけない」という意味だと言われました。

でも、考えてみれば、「息もつけない」っていうことは、やはり社会的に排除されたり、除け者にされたり、捨てられたりしてる人たち。でも、捨てられてもなんとか生きていこうと思って、時にはそれは悪いことをするっていう風に表れるかもしれないんですけども、そういう風に必死に生きてゆく様子が「息もつけない」っていう風に表されたって思うんですね。そう考えれば、私が考えた『クソ蝿』っていうタイトルと英語タイトル、あるいは日本語でのタイトルの『息もつけない(息もできない)』っていうタイトルは通じるところがあるのかなぁと思っています。

宇多丸 なるほど。 

憎悪・親愛・解消としての「シーバッロマー」

宇多丸 この映画ほど——まぁ、今もそうなんですけど——「韓国語解ってればなぁ」って、「韓国語勉強した〜い」って思うんですよ。と言うのは、この映画の中で、すごく罵り言葉がいっぱい出てきますけど、僕らは、観てても、日本語で、韓国語解らなくても憶えちゃうのがですね、「シ〜バラマ〜」——

ヤン・イクチュン (笑)

宇多丸 って、こう言っちゃうワケですよ。もう、リスナーも連発してて、知らないから言える感じなんですけど、もっと解れば、その、言葉の衝撃度合みたいのが解るかなぁと思って。

ヤン・イクチュン 「シーバッロマー」(씹할놈아)っていうのは四文字言葉みたいに、言っちゃダメな言葉なんですね(笑)。

宇多丸 やっぱり。

ヤン・イクチュン 日本でも、放送するんだから「シーバッロマー」って言っちゃっていいのかなぁって思ったりするんですけど。放送の場ですよね? 放送で自分が「シーバッロマー」とか言っちゃってるのが韓国では全く想像もできないわけですよ。それは放送じゃ流れちゃいけない言葉ですから。でも、それをこういう風にこの場で言っちゃってる。この放送は韓国から来てる人とか、韓国人の人も聴くかもしれないじゃないですか? そうしたらその人たち笑うでしょうし、自分もすごく笑えるんですけど。

宇多丸 (笑)あぁ、そうですかぁ。

ヤン・イクチュン 1か月前に私は日本語を習ったんだけど、日本語でそういう放送禁止用語を言おうと思うんですけど(笑)。

宇多丸 例えば?

ヤン・イクチュン [日本語で]チンチン大好き(笑)。

宇多丸 あぁ、それは大丈夫ですよ。

ヤン・イクチュン 大丈夫ですか。

宇多丸 不思議なもので、男性器は何か大丈夫なんですよね。女性器をモロに言うと怒られるっていうような風潮がありまして。

ヤン・イクチュン この「シーバッロマー」っていう言葉なんですけど、これはすごく悪口としても使うし、そうじゃない場合もある。映画の中でも、サンフンが社長に対して「シーバッロマー」って言ってるんですけど、それは悪口を言ってるワケじゃなくて、韓国ですごく、何十年も付き合ってる親しい友人とかに「シーバッロマー」と親愛の表現として言う場合もあるし、逆に、ホントに争う場面で使う場面もあるんですね。

争う場面で言えば、サンフンが父親に対して「シーバッロマー」と言って父親を殴ってしまう。それは、ホントに怒りの表現だったワケですね。ですから、ホントに面白いもので、この「シーバッロマー」っていうのは、親しみの表現としても使われるし、そういう怒りの表現としても使われる面白い言葉だと思います。

宇多丸 今うかがってて、あぁ、じゃぁ、いちばん近いのは、アメリカのヒップ・ホップで出てくる、まぁいわゆるその「Nワード」ですよね。あんまり言っちゃってもアレか、"What's up, nigger?" みたいな。"nigger" って言葉は本来蔑称だけども、彼ら同士の間では親しみの表現として使われたりするワケで、他の人が言ったら絶対ダメな言葉だけど、仲間同士、要するに彼らの間で親しみの表現としては、すごく、こう、アリという。なんかそれをスゴく連想しました。

ヤン・イクチュン この「シーバッロマー」っていう言葉についてはエピソードが多いんですけど、韓国でこの映画を上映しているときに、Q&A、監督との対話みたいなことを劇場で何度もやったことがあるんですけど、そういう時、毎回必ず言われるのが、その「「シーバッロマー」って言ってくれないか?」という要請が観客の方からあって——

宇多丸 そうだろうなぁ(笑)。

ヤン・イクチュン そういう要請をしてくるのは、主に私たちの母親の世代なんですよね。40代とか50代の女性から、その「「シーバッロマー」と言ってみてくれ」というような要請をされることがあるんです。

40代・50代のおばさんからそういう風に頼まれたっていうのは、考えてみますと、韓国社会っていうのは、やっぱり男性中心で、男性の権力が強いってところがまだありますから、ってうことはその一方で女性が萎縮してるっていうこともあると思うんですよね。この映画の中で、「シーバッロマー」って女性が男性に対しても言えるっていうのがありますよね。そういうことを見て聞いた人たちが、監督の口を通して男に対して「シーバッロマー」って言ってみてくれっていう、感情の解消をするっていうか、そういうことが理由じゃないかなって思うんです。

宇多丸 うぅん。

ヤン・イクチュン 考えてみるんですけど、今の社会のシステムっていうのはすごく発達してるじゃないですか。その中で人間性が疎外されたりすることもあるでしょう。それと同時に、やはり男性優位の韓国社会の中で、女性が疎外されてるっていうのもあるんじゃないでしょうかね。そのもどかしさっていうのは、いつか解消しないといけない、解消してあげないといけないと思うんですよ。

私はこの映画をつくった時にもそう思いましたし、その後こういう風な反応を聞いても、解消して、オープンにして、曝け出していかなきゃなぁっていうことを思いました。

(つづく)

原題の『똥파리』(クソ蝿)というのは、日本語ではむしろ「銀蝿」が近いかもしれない。そういう意味では、バンドの「横浜銀蝿」は、自分たちをメタ視線で見ているネイミングということで面白い。メタ不良。

「シーバッロマー」(씹할놈아)は "fucking bastard" という感じの意味らしい。日本語直訳だと「ヤリチン」「ヤリマン」とか、そういう感じ? ネットで観た朝鮮語の予告編では「ピー」音が入っていた。

日本語で蔑称にして愛称という意味では、性的な含意がないし、放送禁止でもないけれど、結局「バカ野郎」がいちばん近いのかなぁ。


『息もできない』韓国版予告編
 

書き起こし(1):『息もできない』ヤン・イクチュン監督×ライムスター宇多丸 緊急スペシャル対談

書き起こし(2):『息もできない』ヤン・イクチュン監督×ライムスター宇多丸 緊急スペシャル対談

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