井上剛[監督]『その街のこども 劇場版』(2010年)を観てきた。
○井上剛[監督]『その街のこども 劇場版』(2010年)を観てきた。
先週末に熊切和嘉[監督]『海炭市叙景』(2010年)と井上剛[監督]『その街のこども 劇場版』(2010年)を観た。
○熊切和嘉[監督]『海炭市叙景』(2010年)を観てきた。(当ブログ内)
どちらも素晴らしい映画。まだの人は観たほうが良い。ホントだから。これを読んだ人は絶対観ろ!
都内では上映館と上映時間の関係で一気にハシゴできなかったので2日に分けて、土曜日に新宿の K's cinema で『海炭市叙景』、日曜日に池袋のシネマ・ロサで『その街のこども 劇場版』という順番。偶然だけれど、この順番で観たのはよかったかもしれない。
『その街のこども 劇場版』予告編
以前にこのブログでも書いたように、テーマがテーマだけに、つまらなかった時に批判しにくいので躊躇していたが、この映画を観ようと決心したのは、ライムスター宇多丸による絶賛を聴き、それに影響されて小林信彦が観に行ったと読んだからだ。
○TBS RADIO 映画博徒の生き様が一目瞭然!ハスリングの記録・2011年 (ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル)
※上記ページの「1月29日その街のこども 劇場版」をお聴きください。○小林信彦「本音を申せば」第639回 「その街のこども劇場版」と「バーレスク」、『週刊文春』2011年2月24日号(当ブログ内)
本編が唐突に始まるので、最初は戸惑った。それに、カメラワークが独特で、テレビ的だけれどテレビ的でなく、映画的だけれど映画的でなく、ドキュメンタリー的だけれどドキュメンタリー的でなく、ドラマ的だけれどドラマ的でない。悪い感じではないけれど、どこか宙ぶらりんな、しかしふとしたきっかけで畳かけるように何かが起こりそうな、胸騒ぎを煽る独特の違和感。
それでも、あっという間に作品の世界に引き込まれた。
というのも、神戸の夜の質感がとても身近に感じられたからだ。
私は、夜更かししてしまったときに外に出て歩くことが時どきある。朝が来るの待つのではなく、こっちから朝を迎えに行ってやろう、朝に先回りしてやろうという気分。東京と神戸の違いはあるけれど、自分がよく知っている冬の夜の色彩と冷気がスクリーンの向こうにもあるように感じられた。
夜の闇で視界が限られているため、視覚以外の感覚が鋭利になり、思考が内省的になる。昼間とは別の認知過程で外界と接する。夜の歩行には独特の覚醒作用がある。
頭の中の時計がスクリーンの中の時間にピタリと合うと、真夜中の冴えた意識で、スクリーンに映る神戸の街を知覚する。
ただ、話はシンプル。新神戸駅で偶然出会った若い男女(森山未來・佐藤江梨子)が、三ノ宮駅から御影山手まで歩いて行って帰ってくる、それだけ。
ふたりは、明日に向って闇夜を歩く。往路では、歩こうとする佐藤江梨子・渋る森山未來という対比が、復路では、渋る佐藤江梨子・歩こうとする森山未來という対比に転ずる感情の機微も興味深い。
ふたりの主人公には、阪神淡路大震災を家族共ども生きのびて、現在は神戸を離れて東京に住んでいるという共通点がある。
震災でご家族や親しい人を失った人たちの気持ちが理解できるなどとは決して思わないけれど、主人公のふたりは、そういう人たちと自分との中間にいる存在で、彼らという第三点を介して、本来なら理解できないはずの震災にすこしだけ手が届きそうな気がした。
そして、ふたりがおっちゃんに手を振るシーンの可笑し哀しさに不覚にも胸がいっぱいになってしまった。このシーンを観るだけでも充分に価値がある。
しかし、私にとって最も印象的だったシーンは、東遊園地の2010年1月17日5時46分の時報のシーンだ。
映画の序盤で、1995年1月17日5時46分の時報に導かれて、被災当時の映像が映し出される。そして、15年を経て、東遊園地で再び時報が流れる。時間が円環したその瞬間、鳥肌が立った。
とは言え、映画を観終った後にこれほどの多幸感に包まれたのは初めてだ。この映画が再生の物語だからかもしれない。
すでにテレビ版が放送されているらしい(NHK総テレビ、2010年1月17日(日)の23:00-24:13)。観ていない。したがって、テレビ版と劇場版の異同は不詳。だが、この作品を劇場で最初に観ることができたのは幸運だったと思う。
上映終了後、劇場の階段を上がって地上に出る。外も夜。映画の続きが始まる。ふたりが歩いた街に比べれば、池袋駅北口周辺は薄汚れて猥雑ではあるけれど。
当然、家まで歩いて帰る。
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コメント
地獄の門であった西宮の隣街にいた俺。
忘れもしません震災の朝6時あたり。
AIWAのラジオ付きカセットボーイをやっとの
思いで探り当て、「ここも情報ない」
「NHKなにやっとるんや」「あ!」
そう、海の見える放送局「AM神戸」で。
ボロボロのスタジオから伝わる情報は
どれも悲惨なものでした。
戦争を知らぬ俺にはこれが戦争のような
ものです。
投稿: Q@N | 2011年2月26日 (土) 13時17分