思春期のラジオと無味乾燥な郊外生活:ドナルド・フェイゲンの場合
○思春期のラジオと無味乾燥な郊外生活:ドナルド・フェイゲンの場合
私は、その文化的風土を理由に、郊外の生活を無味乾燥だと考えるマイノリティーのひとりだったんだ。ジャズとブラック・ミュージック一般、ラジオの深夜放送、ヒップスター文化、ジャズ的価値観全般は、私が実際に送っていた生活に対して、活き活きとしたオルタナティヴのように思えたんだ。
(I was a member of that minority that thought, because of the cultural climate, life in the suburbs was arid. Jazz and black music in general, late-night radio, hipster culture and the whole jazz ethic seemed like a vital alternative to the life I was leading.)
私がいちばん好きなミュージシャン、スティーリー・ダン(Steely Dan)のドナルド・フェイゲン(Donald Fagen, vo & kb)の言葉。彼らについて書かれた評伝、Brian Sweet, Steely Dan: Reelin' in the Years (Omnibus Book, 1994) p.199 の一節。
ここでフェイゲンが言っていることの根底にある実感は、忌野清志郎の歌の根底にある実感とまったく同じ。清志郎が高校の屋上でロックン・ロールやリズム&ブルーズに馳せた想いと、フェイゲンがジャズに馳せていた想いは同じだ。
フェイゲンはニュー・ヨーク市郊外(ニュー・ジャージー州パッサイク群)で思春期を送った。ラジオをモチーフにした彼の作品には、Steely Dan, "FM" (1978)、Donald Fagen, "The Nightfly" (1982) がある。"The Nightfly" では、当時フェイゲンが聴いていたであろう深夜放送の雰囲気が作品化されている:
Donald Fagen, "The Nightfly" (1982)
私が思春期を送った町は郊外どころかド田舎だったけれど/だったからこそ、文化的風土の無味乾燥さという感覚はよく理解できる。私の町には、CDショップも映画館もなく、それどころか、書店はおろかコンビニすらなかった。いわゆる「文化的なもの」は全て町の外にあり、欲しければ行って取って来なければならなかった。
テレビは嘘くさすぎて「活き活きとしたオルタナティヴ」にはなりえないかもしれない。なにがしかの真実がそこにあると信じることができなければ、無味乾燥な生活を贖うことはできない。
私にとっても、無味乾燥な田舎の生活と活き活きとしたオルタナティヴとしての異世界を結んでくれたのはラジオでありました。
※蛇足
前掲訳文のなかの「ヒップスター文化」(hipster culture)とは、ザックリ言うと、白人のジャズ愛好者が涵養した文化のこと。日本で言えば、ジャズについて論じる村上春樹は、アメリカ文学経由でヒップスター文化の影響を受けているはず。「ヒップスター」から転じて後に「ヒッピー」(hippie)という言葉が生まれる。
○参考:
Dissent Magazine - Online Features - The White Negro (Fall, 1957) -(英語)
※ノーマン・メイラーによるヒップスター文化に関する論文。日本語訳も古書でなら入手可。○ラジオな一曲(2):Steely Dan, "FM" (1978) (当ブログ内)
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