山田五郎「デイキャッチャーズ・ボイス」なぜ “マンガ” “アニメ” だけが規制されるのか!?、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2010年12月16日(木)15:30-17:50)
○山田五郎「デイキャッチャーズ・ボイス」なぜ “マンガ” “アニメ” だけが規制されるのか!?、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2010年12月16日(木)15:30-17:50)
「NO」と言える東京都民
東京都・池袋の路上にて撮影
山田五郎、石原慎太郎・東京都知事に噛み付く!
山田五郎が「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2010年12月16日(木)15:30-17:50)で語った東京都青少年健全育成条例改正案(=東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例)の話がニコニコ動画にアップロードされて話題になっているとのこと。
翌週23日(木)の「デイ・キャッチ!」オープニングでそのことが話題に。荒川強啓の語り口がニコ動容認っぽい雰囲気で、山田が「ポッドキャストで聴いて下さい」と釘を刺していたのも可笑しかった。
私も聴いてみた:
○デイキャッチャーズ・ボイス [木]山田五郎(TBS RADIO 954kHz | 荒川強啓 デイ・キャッチ!)
※上記ページからバックナンバーを聴くことができます。
「第188回 2010年12月16日(木)なぜ“マンガ”“アニメ”だけが規制されるのか!?」
東京都青少年健全育成条例改正案の瑕疵を指摘
まず山田は、改正案で追加された条項がむしろ、規制論者的に言えば規制の対象を限定することで規制を弱める結果になり、規制反対論者的に言えば特定の表現を恣意的に狙い撃ちにするものになっているという瑕疵を指摘。賛成派・反対派双方にとって改悪になっているという立論が巧い。
※参考:
○第7条第2号から見える「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」の問題点: 弁護士山口貴士大いに語る
※改正前後の条文を比較できます。
石原慎太郎原作の大映映画『処刑の部屋』(1956年)
さらに聴きどころはここから。
石原慎太郎原作の大映映画、市川崑[監督]『処刑の部屋』(1956年)が俎上に。
金持ちの大学生が睡眠薬入りの酒を飲ませて女子大生をレイプする準強姦シーンに言及し、作品に触発された性犯罪が当時少なくとも3件起きて社会問題化したことを紹介しつつ、山田は次のように主張した:
仮にね、この「処刑の部屋」を原作に忠実にアニメ化した作品があった場合ね、どうして実写はよくてアニメだとダメになるのかということについて説明して欲しいなって気がするんですよ。
「ヌード画を隠すな」『スパルタ教育』(1969年)
センセ〜! この表紙は規制の対象に入るんですか?
また、山田は、石原の著書『スパルタ教育——強い子供に育てる本』(光文社、1969年)の23条「ヌード画を隠すな」に言及し、次の一節を引用:
わたくしは子どもたちの前でヌード写真の氾濫した雑誌を隠さぬ事にしている。
[……]不自然に隠すことのほうがどのように悪い想像力を育て、悪い衝動を子どもたちのなかに培うかわからない。
『スパルタ教育』(光文社、1969年)p.64
これに対し山田は、「なんでマンガ・アニメはダメなんですか? なんで石原伸晃さんや良純さんは見ることができて、よその子には見せてくんないんですか?」と腐した。
お見事。
漫画家・アニメーター・出版社は萎縮も自粛もせず、規制されたら訴訟を起こして裁判で条例の問題点を明らかにせよと締めくくった。
資料:
○青少年育成条例改正案に賛成した議員達|運命の瞳
※東京都議会総務委員会で改正案に賛成した委員のリストが載っています。次の選挙の参考に。
これを聴いて、石原慎太郎について想い出したことなどを思いつくままに書いてみる。
「太陽の季節」(1955年)
まぁ、この件に関連して「太陽の季節」(1955年)の例のシーンを引き合いに出して石原批判を展開する人は多々ある:
「英子さん」
部屋の英子がこちらを向いた気配に、彼は勃起した陰茎を外から障子に突き立てた。障子は乾いた音をたてて破れ、それを見た英子は読んでいた本を力一杯障子にぶつけたのだ。本は見事、的に当って畳に落ちた。
その瞬間、竜哉は体中が引き締まるような快感を感じた。彼は今、リングで感じるあのギラギラした、抵抗される人間の喜びを味わったのだ。
ところで、話は少し逸れるけれど、西岸良平『三丁目の夕日』と「太陽の季節」がほぼ同時代の話というのも興味深い。どっちも昭和30年代。
庶民が東京タワーを見上げながら地ベタを身の丈で慎ましやかに生きていたそのときに、他方、金持ちのボンボンは海に船を浮かべ、酒とセックスとヴァイオレンスで無軌道に遊び呆けていた。
まぁ、石原小説の中の昭和30年代は青少年の凶悪犯罪が多発していて、この点で統計データと符合しているけれどね。
石原兄弟は、山下汽船の元小樽支店長の息子として、内地-植民地物流で蓄えた巨万の富を湘南で湯水のように消費。そこから生まれた作品を映画館で観た庶民は、燦然と全身にオーラを纏った裕次郎の姿と、戦後日本の輝かしい未来を重ねあわせていたのだから皮肉なものだよ。
「処刑の部屋」(1956年)
山田五郎の話を聴いて「処刑の部屋」(1956年)を初めて読んだ。映画は未見。小説の冒頭にはエピグラフ風にこう書かれている:
抵抗だ、責任だ、モラルだと、他の奴らは勝手な御託を言うけれども、俺はそんなことは知っちゃいない。本当に自分のやりたいことをやるだけで精一杯だ。
マンガ・アニメのクリエイターたちにも、本当に自分のやりたいことを精一杯やらせてあげて下さい。
そして例の準強姦シーン。睡眠薬を混入したビールで昏倒させた女子大生たちを仲間の部屋に運び込み、誰が誰を犯すか決めて、それぞれの部屋に別れてレイプ:
抱きかかえた腕の内、手肢をばたつかせてもがく顕子をもう一度ゆすり上げるようにかかえ直すと克己は突然可笑しくなり声をたてて笑った。力を入れ抱きしめると乱暴に唇を押しつけベッドに放り出した。懸命に睡けを払おうとしてあがく女の顔を上から見下ろしたとき、彼は急に激しく顔をしかめた。
"これが、これが一寸でも俺の感心した女なのか! 結局女なんて奴は皆こうなんだろうか"
克己はあの時研究室で見た顕子を思い出した。小首を上向きにかしげ高慢に取り澄まし、吉村をきめつけていた顕子の、彼が初めて感じた冷たい美しさ。それに引き代え目の前の彼女は、酔いが廻り、死にかかった魚のように力無い眼差しで彼を見上げている。
"何とか言え、何とか言ってみろ"
何か怒りとも嘲りともつかぬ無茶苦茶な衝動が走り、いきなり両手で女の胸元を摑んで引き起こすと剥ぎとるように着ているものを取っていった。半裸になった顕子は頭を振っている。睡けにたるんだ顔の下から何かの表情が懸命に浮かびかかって消えた。
「しっかり目を開けて見ろっ」
言いながら克己はその頬を右左と張っていた。その衝撃で思わず頭を起し、はっきりと眼を開いて克己を見据えた顕子は突然倒れるとそれきり動こうとしなかった。訳のわからぬことを唸りながら克己は顕子に飛びついた。
鬼畜ですね。
それに加えて、終盤ではグロいシーンも登場。敵に囲まれてフルボッコにされる主人公が、割れたビール瓶で刺され、腹から内臓が飛び出し気味になり、それを自分の手で触る。その右手の指も一本千切れかかっている:
下半身は苦痛で麻痺して感覚がない。掻き切られた洋服の中に手を縫って入れ傷口をおさえてみた。流れかかった自分の臓腑が生ぬるく感じられる。
"中は大丈夫だ"
ふと今も夢かと疑う彼の自らの掌に溢れかかった臓腑はどろっと柔らかくそれでいて重みのある感触だった。
「処刑の部屋」に、「性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれ」(青少年健全育成条例改正案第7条第1号)がなければいいですね。
別に私は石原小説の文学的価値を云々しているのではない。エログロ描写の有無が作品の価値を下げるなどとも断じて思わない。まぁ、今読めば、実存主義的なトーンが濃厚過ぎて今日的なリアリティーを欠いているのは仕方がないけれど、私には、むしろ想像以上に興味深く読めた。ヒドい話だが小説としては決して悪くない。
私がわざわざ引用して茶化しているのは、「慎太郎、お前、どの口でそんなこと言ってるんだ」と言いたいだけのこと。ただの愉快犯です。
障子紙と一緒に社会規範をブチ破った若きアプレ世代の旗手が、老境に至ってスッカリ規範の権化になっているというのも皮肉なものだね。
ちなみに、こういうことを言うと井筒和幸は怒るかもしれないけれど、「処刑の部屋」と彼の『ヒーローショー』(2010年)は、無軌道な暴力の末に若者が身を滅ぼすという点では似ている。ただ、前者の暴力が実存の発露として肯定的に描かれるのに対して、後者の暴力をめぐる物語は実存の希薄さが惹起した悪夢として描かれる点で異なる。それぞれの時代の精神史的状況や同時代的リアリティーやつくり手のアティチュードの違いだろう。
○再:井筒和幸[監督]『ヒーローショー』 (2010年)がスゴい!(当ブログ内)
「青春とはなんだ」(日本テレビ系、1965〜66年)
山田五郎の話とは直接関係ないけれど、石原慎太郎は、テレビ・ドラマ「青春とはなんだ」(日本テレビ系、1965年10月24日~1966年11月13日、日曜日 20:00~20:56)の原作・原案も担当。
アメリカ帰りの英語教師・野々村健介が田舎の高校に赴任し、一種のトリックスターとして学園を活性化するという内容。反米右翼がつくった作品とは到底思えないプロット。ホントはアメリカ大好きなんじゃないの?
このドラマ、世界システム論的に読むと興味深い。アメリカという中心(core)と、日本の田舎という周辺(periphery)。アメリカ帰りの英語教師・野々村が半周辺(semi-periphery)のポジションで振る舞い、周辺を感化・動員するという構図。
少なくとも盛田昭夫との共著『「NO」と言える日本』(光文社、1989年)以降は、石原は反米主義者として認知されているけれど、もともとはどうだったのよ?
誰の発言かは失念したけれど、石原を「最もアメリカナイズされた反米主義者」と皮肉った人もいたなぁ(鳥越俊太郎だったかな?)。
首都機能移転には賛成の反対なのだ!
有名な話だけれど、大改造!! 劇的ビフォーアフター。何ということでしょう:
首都機能移転、11年前は賛成してた? 「証拠写真」で石原知事追及−−衆院特別委(毎日新聞、2001年12月8日)
首都機能移転問題を審議する衆院の国会等移転特別委員会(永井英慈委員長)は7日、東京都の石原慎太郎知事が同委員会の参考人招致で「事実と異なる発言をした疑いがある」として、弁明を求めることを決めた。石原知事は11年前に行われた国会の首都機能移転決議を「ばかな」と批判したが、当時衆院議員だった知事本人が賛成していた可能性が浮上したため。石原知事は「記憶が定かでない」としている。
石原知事は、先月21日に行われた同委員会に参考人として出席。90年11月7日に行われた決議案採決について「自民党で座った(反対した)のは私を含めて4人」と述べた。さらに「とりあえず首都を移すという、こんなばかな決議をした国会というのは、世界中ないよ」「一種の暗黒裁判」などと歯にきぬ着せぬ発言を繰り返した。
ところが、同委員会で調査したところ、新聞社が保管していた写真に、当時の石原知事の議席で起立している男性議員の姿が写っていたという。委員会終了後に記者会見した永井委員長は「決議に反対したことを前提に陳述しており、事実なら国会の権威を失墜させる」と語った。知事に文書で事実確認を申し入れる。
これに対して石原知事は7日の記者会見で、「あの時は座っていたと信じていたんですが……」と、物証を突きつけられての“逆襲”にとまどいながらも「移転には断固反対」と述べた。
「あの時は座っていたと信じていたんですが……」って何?
まぁ、ひょっとしたら、衆議院議員時代には首都機能移転に対して何の信念ももっていなかったので本当に何も憶えていないという可能性もあるけれど。
「今は反対していると信じているんですが……」
以上のように見てくると、石原慎太郎は、何の定見をもたない変節漢であるという点においてのみ首尾一貫した人物のようだ。「実存は本質に先立つ(L'existence précède l'essence.)」——って、そういう意味じゃないか。
考えが変わることは誰にでもよくあることで、それ自体は別に構わないのだけれど、変ったことを認めようともせず、なぜ変ったのか説明しようともしないところが公人として失格。イタいところを衝かれるとすぐキレる老人。タフガイぶった小心者は、自分がブレていることが露わになるのが怖くて仕方ないのだろう。
他にも問題だらけ。
横田基地軍民共用化。「私はボルトンと仲良しで気が合うから上手くいく」的なことを言ってなかったっけ?
そして何と言っても新銀行東京。興味を示していた外資の言い値で、コッチがカネを払って引き取ってもらおうとしたが失敗したという噂もある。400億円増資は外資へのお土産だった説。
そもそも、道路だ、カジノだ、オリンピックだと、センスが昭和のガハハ親父。それを他人のカネ、都民の税金でやろうとしている輩。自分のカネで遊べよ。
また、アウトロー気取りだが、その実、冴えない画家をやっている四男・延啓の作品を都の税金で購入したりする小悪党でもある。
それなのに、どうしてみんな慎太郎が好きなの? 裕次郎の兄貴だから? 「NO」と言ってくれそうだから?
でも、マンガ・アニメが狙われるまで野放しにしておいて、今さら慎太郎に反対し始めている人たちも、それはそれで節穴の大ウツケだと私は思うけどね。
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