ニュース探求ラジオ Dig(TBSラジオ、月〜金22:00-24:50)
○「ニュース探求ラジオ Dig」(TBSラジオ、月〜金22:00-24:50)
番組が始まって2か月近く経ってしまっているけれど、「ニュース探求ラジオ Dig」(TBSラジオ、月〜金22:00-24:50)については書きそびれておりました。
小林信彦翁の激辛評に触れて、私も自分なりの意見を書いてみようと思った次第。
なるべく具体的に書こうと思うので、ブログにしてはかなり長文です。
[番組全体について]
小林御大は「民放のNHK」というイメージとの乖離を問題にしていらっしゃるようだけれど、オレッちはバカだから、夜の22:00から硬派な番組は2時間が限度、3時間はムリ。
放送時間が長いので、聴きやすさも重要だと思う——トーク番組としての面白さとか、番組の構成上のメリハリとか。同じ番組の各曜日の比較をするとなると、後者の差はあまりないと思うので、トーク番組としての面白さの差が私には気になる。
そういう意味では、中村尚登ニュース・デスクや崎山敏也記者や武田一顯記者の話の上手さに改めて気付いたりもしている(まぁ、中村ニュース・デスクは元アナウンサーだから当然だけれど)。
内容に関しては、小林御大ほどキツい評価ではないけれど、いまひとつ掘り下げ切れていない感は否定できない。
ただ、時間のある番組でないと拾わないような話が出てくるところは良いと思う。たとえば:
・普天間飛行場移設問題の回で出た、アメリカに軍用地として貸すよりも宅地や商業地として活用したほうが実ははるかに地元経済にはプラスだという話や、普天間飛行場における現地雇用はわずか200人にすぎないという話。(4月5日(月))
・「東京都青少年条例」改正案の「非実在青少年」問題について、法案は基本的に紙ベースでしか出回っていなかったので、ネット上では条文についての具体的な議論が尽くされていない。(4月8日(木))
など。
しかし、取り上げた話題について、何が問題なのか、何が議論されているのか、何が議論されていないのか、なぜ議論されていないのか、なぜ議論するべきなのか、などといった論点の整理がモヤ〜っとしている感じがする。コレを毎日、というのはたいへんなご苦労だと思うけれど。
人手は要りそうだけれど、ネタを水平に撒いて、リスナーによる百家争鳴・多事争論の「バトルトーク」ほうが、スリリングな番組にはしやすい。
「Digテーマ1」「Digテーマ2」のように番組が区切られているけれど、単に区分るだけではなく「Dig1を聴けばその話題がメディアでどう取り上げられているか解る」「Dig2を聴けば何が取り上げられていないか解る」「Dig3を聴けば……」などのように、区分ごとの位置づけを全曜日共通にすると聴きやすいかも。掘り下げていく感じの構成にもなるし。
ところで、番組の初めのほうの「今日ここまでの主なニュース」を聴いても、その日のニュースをチェックした気分に今ひとつなれないのは私だけかなぁ? 小林御大は「アクセス」の最後のほうは「カウントダウン・トゥデイ」しか聴いていないことが多かったそうだけれど、「Dig」はそういう聴き方にも向いていない印象。
ランキングになっていたから、聴く側の集中力が高まっていたのかもしれない。内容としてはそれほど変っていないはずなのに。ランキングでないにしても、何らかの構成上の工夫があればなぁ。
[好きな曜日ランキング]
1位:月曜日 カンニング竹山・竹内香苗アナウンサー
2位:水曜日 藤木TDC・外山惠理アナウンサー
3位:金曜日 大根仁・水野真裕美アナウンサー
4位:木曜日 荻上チキ・外山惠理アナウンサー
5位:火曜日 神保哲生・竹内香苗アナウンサー
「BATLE TALK RADIO アクセス」(TBSラジオ、1998年10月5日〜2010年4月2日、月〜金22:00-23:55)が好きだった人のなかには、私と全く逆のランキングの人もいるかもしれないと思ったりもする。
[各曜日について]
つづいて、月→金の曜日順に感想なり意見なりを述べたい。「桜川マキシム」のN-1グランプリに倣って星もつけてみた。
月曜日:竹内香苗・カンニング竹山
娯楽性 | ★★★★☆ |
情報 | ★★☆☆☆ |
好き嫌い | ★★★★☆ |
ラジオ番組として、5曜日のなかでダントツに面白い。
安心して愉しく聴ける曜日。竹山・竹内のコンビがとても良い。他の曜日は、聴いてるこっちが気を使うこともある。お笑い芸人ってスゴいんだなぁと率直に感じた。
竹山のニュースに対するアプローチは、手持ちの情報を出してくるというよりも、話題に触れることで出てくる疑問を拾い上げるという感じ(的が外れていることもときどきあるけれど)。伊集院光っぽいアプローチかもしれない。それが番組に趣旨に合っているように思えるし、リスナーの立場にも近い。
でも、借金の話の時(5月3日)は経験者ならではのスゴい情報密度でございました。
ただ、荻上チキに「お笑いの内幕を知らない」と反論していたのはやや不毛な印象(5月10日)。それを言ったら、ただの批評封じ。
気持ちは理解できるし、他ならぬお笑い芸人の竹山がそれを言うことに意味はあると思う。ただ、従来のお笑い論がお笑いの内幕を劇的に物語るものになりがちなのに対して、批評的・メディア論的・社会科学的アプローチを試みようというのが荻上の目論見だったはずだし、そういう趣旨の話もしていた。
他者への共感は大切だけれど、批評の使命は、「がんばったで賞」を与えることではない。
火曜日:竹内香苗・神保哲生
娯楽性 | ★☆☆☆☆ |
情報 | ★★★★☆ |
好き嫌い | ★★☆☆☆ |
いちばん感想に困る曜日。
ニュースずきな人がいちばん期待している曜日ではないかと思う。ただ、私としては、悪くないけれど、意外性もない感じ。
神保は、ニュース・メディア界では異彩を放つ存在だけれど、「Dig」の曜日パーソナリティ5人のなかではいちばん普通の人。
勉強になる。でも普通。
神保が訳したミッチ・ウォルツ『オルタナティブ・メディア——変革のための市民メディア入門』(大月書店、2008年)は私の愛読書のひとつ——って、大したフォローにもなってないか。
Ustream での生中継とアーカイヴ化しているので、番組全編をいつでも見直せる点は他の曜日にない特徴。他の曜日もやればいいのにね。竹内アナ、Ustreamでもやっぱり美人だ。
水曜日:外山惠理・藤木TDC
娯楽性 | ★★★☆☆ |
情報 | ★★☆☆☆ |
好き嫌い | ★★★★☆ |
この番組が始まるまでは、藤木TDCについて全く知らなかったけれど、挙動不審者風のネッチョリしたトークに強い親近感を覚え、水曜日はかなり好き。
外山アナにちょっかいを出して、あっさり袖にされるネタ風のやり取りも可笑しい。
電話出演のゲストに対して外山アナがぶつけるザックリした質問を、うまく言い換えたり的を絞ったりする藤木のインタヴュー手腕に感心することもしばしば(例えば、5月19日)。
木曜日:外山惠理・荻上チキ
娯楽性 | ★★☆☆☆ |
情報 | ★★★☆☆ |
好き嫌い | ★★☆☆☆ |
どこかで外山アナが荻上を「言葉数の多い人」と言っていたように記憶しているけれど、私もそういう印象。
話と話の間に論理的なつながりをつけようとしているのは解るけれど、そのジョイントがやや冗長。全部説明しなくてもリスナーは解る。
同じ話を文字に起こして雑誌の記事として読むのであればいい感じの読み応えかもしれない。論理以外にも、ラジオ的アプローチにはもっと幅があるはず。
あと、数多のインテリのなかで固有の価値を高めるためには頭の良さ以外のポイントが大事なのは解るけれど、TENGA の話すれば面白いってワケじゃないからね。秀才なだけじゃなくて下の話も出来るんですっていう感じは、宮台真司と同じやり方か?
とはいえ、DV(4月29日)やセクシャル・マイノリティー(5月20日)の話題を取り上げている点は高評価。「DV から逃げない女ばかりが批判され、加害者の男が批判されないのはおかしい」という話は、ジェンダー論を多少かじった人や、個人の自由を重んじる人のあいだでは共有された「いろはの「い」」だけれど、「どうして逃げないんだ」論が世間一般では未だに主流という印象。
テレビでこの手の話をやろうとすると、田島陽子とかを呼んで、結果的にみんなで叩くハブとマングース・ショーになるのがオチ。
ラジオを通じて共有の輪が広がることには意味がある。
金曜日:水野真裕美・大根仁
娯楽性 | ★★★☆☆ |
情報 | ★★☆☆☆ |
好き嫌い | ★★★☆☆ |
水曜日の藤木TDCと同じく、大根仁という名前もこの番組で初めて知った。
金曜日初回の放送で、番組開始直前まではスタジオ内のテレビに釘付けで、続いて、具体的な番組名を挙げつつ、TBSラジオのヘヴィー・リスナーだという話をしていた。テレビの人だという自己紹介と、ラジオ・ファンとの共犯関係の構築をほんの数分でやってしまったことに、「計算でやってるとしたらスゴい人だ」と感心した。
ラジオの初心者であるとは言いつつも、自分なりの思考法をちゃんともっている人という印象で、聴きやすい。
5月21日の小林信彦へのリアクションは秀逸だった。相手の言葉で相手を斬るってのはカッコいいね。相手への愛と知識がないとできない。小林信彦『怪物がめざめる夜』(新潮社、1993年)、注文したぜ。
ただ、自転車を会社の後輩から借りた話のときの「先輩、オレのカノジョやっちゃってくださいよ、みたいな」という譬え話にはゲンナリ。シャレだというのは解るけれど、「あぁ、こういう譬えを面白いと思うタイプの人なんだな」と不快。これを聴くまでは、5曜日のなかで2位だったのに。
水野アナは、ラジオの初心者みたいなことを言っていたけれど、人生のキャリアは二十数年あるわけだから、それを出せばいいんじゃないと思ったり思わなかったり。ガードが固い。真面目なかたとのこと。
番組開始前のラン・スルーで水野アナは、「Dig」をずっと「Dick」と言い間違えていたらしい。「掘る」つながりだから大丈夫。ドンマイ!
※等ブログ内の関連エントリー
○小林信彦「本音を申せば」第599回「春はお別れの日々」、『週刊文春』2010年4月14日号
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コメント
こんばんは、ご無沙汰しています。
小林信彦の一件で、twitter上ではかなり盛り上がった感のある「Dig」ですが、個人的はお試し期間を過ぎたので、まとまった意見を僕もそろそろ書こうかななんて思っていたところです。
僕の現在の「Dig」の個人的ランキングは、金>水>木=月>火といったところです。いちばんこの番組に対して前向きに取り組んでいた神保さんの日が普通すぎておもしろくないとは、ラジオはなかなかむずかしいですね。 個人的には大根さんの日が「ストリーム」や「キラ☆キラ」的トークやアプローチでいちばん好きです。
投稿: 月本夏海 | 2010年5月23日 (日) 21時01分
書き忘れましたが、「怪物がめざめる夜」は「マイケル・ジャクソン出世太閤記」の縁で、藤井青銅に取材して書かれたそうです。藤井青銅は「オードリーのオールナイトニッポン」の構成と「ラジオアーカイブ 発掘!ラジオ天国」をやっていますね。
投稿: 月本夏海 | 2010年5月23日 (日) 21時09分
管理人様、こんにちは。更新、お疲れ様です。Digの評価、楽しみにしていました。なるほど、この見方は納得です。私は、いまだに藤木TDC、大根仁の起用には?。これじゃあ、NHKに負ける。
私は月、火しか聞きません。
投稿: mm | 2010年5月25日 (火) 22時20分