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イ・ジュニク[監督]『ラジオ☆スター』 (2006年)

○イ・ジュニク[監督]『ラジオ☆スター』 (2006年)

年始にアリ・フォルマン[監督]『戦場でワルツを』Ari Folman dir., Waltz with Bashir(2008年)を観に行ったときに、イ・ジュニク[監督]『ラジオ☆スター』라디오 스타(2006年)の予告編が流れていた。

ラジオの映画という事で気になっていたが、すっかり忘れていた。最近になって思い出したが、公開している劇場が見当たらない。2009年6月5日に既に日本版DVDが出ているので、あれはDVDの宣伝だったのかもしれない。


『ラジオ☆スター』予告編(朝鮮語)
※日本語の予告編が見つかりませんでした。

連載「アジア映画は今」(2) イ・ジュニク監督に聞く・映画の森

『ラジオ☆スター』は、韓国では大ヒットしたようだけれど、日本ではシネマコリア2007などのごく限られた機会で上映されたのみで、事実上DVDスルー状態。そのせいなのか、DVDの値段が税込5,040円。かなりの出費だよ、ホント。やっぱり、おばちゃん御用達の若いイケメン韓流スターが出ていないと劇場ではかからないのかなぁ。

あらすじ

ロック歌手チェ・ゴン(パク・チュンフン 박중훈)は、1988年の「MBS歌謡大祭典」で歌手王に輝く人気歌手だったが、今や落ちぶれた一発屋。営業先で暴力事件を起こして拘置所に。献身的に彼をサポートするマネージャーのパク・ミンス(アン・ソンギ 안성기)は、保釈金と引き換えに寧越(ヨンウォル)支局でラジオ番組を担当する約束をMBSの局長と結ぶ。

最初は不貞腐れて全くやる気のなかったチェ・ゴンだが、コーヒーを配達に来たウェイトレスが番組に出演したことをきっかけに、次第に街の人たちと心を通わすようになり、「チェ・ゴンの午後の希望曲」は人気番組になって行く。

やがて番組の人気は局長の知る所となり、番組のソウルへの異動、大手芸能事務所によるチェ・ゴンの引き抜き話が持ち上がるが……。

評価・感想など

はっきり言って、これはイイ。とてもススメ。

仰木 豊[監督]『FM 89.3MHz』 (2007年)に次いで、現在、『ラジオ☆スター』は、私が選ぶラジオ映画第2位。

いかにも韓国のコメディー映画っぽい泣かせ方や笑わせ方がベタといえばベタだが、それがかえって地方のラジオ局という設定に合っている(地方のイメージがステレオタイプ的ではあるが)。ストーリーも単純だが、意外と破綻が少なく、よくできた脚本だと思う。

12年前に放送を停止し、現在は中継所になっている支局を、みんなで(なぜか中華料理屋の出前持ちの男も手伝って)もういちど放送できるように準備してゆく過程が描かれているのも、観客を感情移入させるのに良い仕掛けだと思う。

ちなみに、映画に登場するMBSは架空の放送局で、KBSをモデルにしている。日本で言うとNHKに該たる。実際の撮影もKBSの寧越中継所(783kHz, 10kw)で行われたようだ。作中で言及されている支局の統廃合話も、実際にKBSで行われた統廃合に材を取っているらしい。局名はKBSとMBCを折衷したものではないだろうか。

ラジオスター(作品のファンの方によるロケ地探訪の記録)

このブログで、リチャード・カーティス[監督]『パイレーツ・ロック』Richard Curtis dir., The Boat That Rocked(2010年)についてご紹介した時に、リスナー側の描写が薄くて感情移入できなかったと書いた。

リチャード・カーティス[監督]『パイレーツ・ロック』(2009年) を観て来た。(当ブログ内)

DJとリスナーの関係性を描くためには、リスナーの側の描き込みは絶対に必要だ。両方を生きた人間として描かなければ、リスナーがただの小道具に見えてしまい、両者の関係がウソくさく見える。『ラジオ☆スター』では、番組を取り巻くスナーたちが個性的だ。

そうしたリスナーのなかでも、チェ・ゴンを崇拝している「寧越唯一のロック・バンド」、イースト・リバー(東江)が、いかにも田舎のロック・バンドという雰囲気に溢れていて、非常にいい味を出していた。このイースト・リバーは、韓国のパンク・バンド No Brain が演じている(2001年のフジロックでのヤンチャぶりでご存知の方もいるかもしれない)。

ストーリーとは関係ない話だが、放送事故を起こして原州(ウォンジュ)支局から寧越に異動させられたプロデューサーのカン・ソクヨン(チェ・ジョンユン 최정윤)がエリカ様っぽくて結構かわいい。あと、端役の看護士リスナー(オ・ソウォン 오서원)が美人だ。

残念な点は、ストーリーが内向きで小さくまとまってしまっている点。もう少し社会的なモチーフがあればもっと良い作品になったと思う。

例えば、調べた所によると寧越はかつて炭坑で栄えた土地とのことなので、炭坑街の衰微とチェ・ゴンの歌手としての衰退を重ねて、両者の再生への願いをひとつの映画に描き込むことができれば、泣けて笑えて考えさせる映画になったはず。

ついでに、細かい難を言えば、チェ・ゴンのDJぶりをもっと魅力的に描く事ができれば、説得力がもう一段増したかもしれない。落ちぶれてもなおスター然と振る舞っていても、どこか憎めないところのあるチェ・ゴンのキャラクターは魅力的なのだが、放送はわりと普通だ。あるいは、第1回の放送をもっとヒドくすることで、それ以降の放送を相対的に良く見せるという手もあったかもしれない。

また、マネージャーのパク・ミンスがあそこまでチェ・ゴンに尽くす理由が、映画を観ただけではよく解らない。象徴的なエピソードをひとつぐらい挿入する必要があったかもしれない。

それでも愉しめる作品で、ダイヤモンド☆ユカイ、役所広司、サンボマスターあたりを起用して日本でリメイクすれば流行るかもしれない。(シネカノンは、これで再起なんてどうでしょう?)

ラジオが好きな人は、絶対に気に入るはず。おススメです。

でもDVDの値段が高い。これだけがネックだ。

※蛇足

マネージャー パク・ミンス役のアン・ソンギは、役所広司に似ている気がする。顔だけでなく、おそらく映画界におけるポジションも。歳も近そうだ。アン・ソンギは、シリアスな役のイメージが強かったが、コメディーも上手い。カッコいい。

ロック歌手チェ・ゴン役のパク・チュンフンの奥さんは、ニュー・ヨーク大学大学院留学中に知り合った在日韓国人とのこと。パク・チュンフンは充電期間中には東京に1年間住んでいた事もあるらしい。

番組に「ミョンドン花店」という花屋が登場する。日本でも、「銀座通り」のような商店街が地方に必ずあるが、韓国でも発想は同じのようだ。

日本ではプロデューサーを「P」と略すが、韓国では「PD」らしい。

スタジオで使っているヘッドフォンが SONY MDR-7506 だった。

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1988年に「雨とあなた」で音楽大賞を受賞し、当時は大スターだったチェ・ゴン(パク・チュンフン)。その後、酒・クスリ・ケンカなどで落ちぶれすっかり過去の人となり、今では場末の喫茶店で弾き語りをしている。しかしプライドだけは未だに大スター、店の客...... [続きを読む]

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