町山智浩「コラムの花道」、「ストリーム」(TBSラジオ、2009年1月27日(火)13:00-15:30)
○町山智浩「コラムの花道」、「ストリーム」(TBSラジオ、2009年1月27日(火)13:00-15:30)
『戦場でワルツを』を観ろ!
※ネタバレ含む。
正月に「荒川強啓 デイ・キャッチ!」(TBSラジオ、2009年1月1日(金)15:30-17:50)を聴いていたら宮台真司がアリ・フォルマン[監督]『戦場でワルツを』Ari Folman, Waltz with Bashir(2008年)を観ろと言っていた。
○「デイキャッチャーズ・ボイス」2010年1月1日(金)(「荒川強啓 デイ・キャッチ!」サイト内)
○Waltz with Bashir(英語公式サイト)
○映画[戦場でワルツを]公式サイト (日本語公式サイト)
以前、町山智浩がこの映画を話題にしていて、日本公開が決まったときに絶対観ようと思ったが忘れていた。
この映画については「小島慶子 キラ☆キラ」(TBSラジオ、月〜金13:00-15:30)で聴いたような気がして、サイトを探したが見当たらなかった。検索し直すと、「キラ☆キラ」ではなく、「ストリーム」(TBSラジオ、2009年1月27日(火)13:00-15:30)で聴いたと判明。
「ストリーム」——なんだか遠い昔の話のようが気がするけれど、去年の3月まで放送してたんだねぇ。
「ストリーム」のサイトは既に削除されているが、当該の回は下記から聴くことが出来るらしい:
東京ではシネスイッチ銀座で公開されているが、2009年1月15日(金)までとのことで、年始に慌てて見に行った。順次全国公開されてゆくらしい。
『戦場でワルツを』(2008年)予告編
ブック・ガイドめいた感想
このドキュメンタリー映画で、映画の主人公で監督のアリ・フォルマンは、イスラエルのレバノン侵攻(1982年)に19歳で従軍したものの当時の記憶がなく、かつての戦友や関係者へのインタヴューを通じて記憶を取り戻す過程をアニメイションで描いている。
太い実線のアメコミ調の絵柄で、FLASHアニメ。こういうアニメにそれほど馴染みがなかったので新鮮だった。実線が太いのでベタ多め、陰影のコントラストが印象的で、画面全体に独特の緊張感がある。不謹慎を承知で言えば、なかなかスタイリッシュなアニメでもある。
原題 Waltz with Bashir の "Bashir" とは、キリスト教マロン派・ファランへ党リーダー、バシール・ジェマイエル(Bachir Gemayel)から取られている。彼は、1982年にレバノンの大統領に当選するが、就任前に暗殺されている。サブラ・シャティーラ虐殺事件は、この報復と言われている。
時代背景については、フォルマンとのインタヴューを含むこのような動画もあった。文章で読むより手軽かもしれない:
○解説委員室ブログ:NHKブログ | アジアクロスロード「アジアを読む」 | アジアを読む 「映画『戦場でワルツを』 ~戦争にノーと言いたい~」(上掲動画の書き起こし)
まず、この映画を観ながらクロード・ランズマン[監督]『SHOAH』Claude Lanzmann, SHOAH(1985年)を想い出した。『SHOAH』は、ホロコーストに関わった元ナチスやユダヤ人生存者などに対するインタヴューで構成される、570分の大作映画。同じユダヤ人の監督によるドキュメンタリー(的な)映画だが、『SHOAH』がユダヤ人の受難と抵抗を明らかにするのに対して、『戦場でワルツを』は異なる視軸からユダヤ人のアイデンティティーに切り込んでいる。フォルマンとランズマンがお互いの作品をどう思っているか聞いてみたい。ふたりが対談したらとても面白いと思う。
上のインタヴュー動画の3でフォルマン自身が語っていることにも関わるが、この映画は、イスラエルのユダヤ人たちのナショナル・アイデンティティーの根幹を掘り崩しかねない内容になっている。フォルマン個人の物語であると同時に、イスラエルのユダヤ人全体の記憶と忘却を剔抉している。
記憶や歴史は、過去にではなく現在に帰属するものであるという思いを強くした。
精神科医で革命理論家のフランツ・ファノン(Frantz Fanon)は、『黒い仮面・白い皮膚』<<Peau Noire, Masques Blanc>>(1951年)で、戦争状況下での残虐行為などで兵士が見せる常軌を逸した攻撃性の原因を、戦争状況における極度の緊張と恐怖に由る「戦争神経症」(Les névroses de la guerre)と呼んだ。レバノン上陸時に目の前をたまたま通過したベンツを総員で一心不乱に銃撃するシーンや、戦友フレンケルが機関銃をとなりの兵士からもぎとって路上に飛び出すシーンや、映画の中核である難民キャンプのムスリム虐殺のシーンを観て、この「戦争神経症」という言葉を想い出した。
当時の国防大臣で後に首相を務めたアリエル・シャロン(Ariel Sharon)が虐殺の報告を「報告をありがとう」と握りつぶした事実をテレビ・レポーターが明らかにしていたのが生々しかった。
同時に、同レポーターが、虐殺現場で瓦礫に埋もれた子供の死体を見て「巻毛が自分の息子にそっくりだった」という感想を語っていたのも印象的だ。宗教的には鋭く対立する人たちが、「重なりあう領土、からまりあう歴史」(overlapping territories, intertwined histories)を生きてきた者同士で、実は近い存在であることを示唆しているように思えた。
印象的なラスト・シーンは、スティーヴン・スピルバーグ[監督]『シンドラーのリスト』Schindler's List(1993年)へのアンチテーゼにも見えた。
アニメでこれをやられたら、天下のジャパニメイションも形無しだ。童貞のキンタマから小銭を搾り取るモンキー・ビジネスばっかりやっててもねぇ。日本にも、過ぎ去ろうとしない過去に向き合うアニメ作家が登場することを期待する。
そのまま吉祥寺で『ANVIL!』
実はこの日、午後に『戦場でワルツを』を観た後、その足で吉祥寺バウス・シアターにサーシャ・ガバシ[監督]『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』ANVIL! The Story of Anvil(2008年)を観に行った。バウス・シアターでは1月8日(金)までだが、渋谷のアップリンクや池袋のシネマ・ロサでは1月15日(金)までやっている。
年末にマイケル・ムーア[監督]『キャピタリズム——マネーは踊る』Capitalism: A Love Story(2009年)を観たので、この1か月は近年になく映画三昧だ。
『ANVIL!』も町山智浩の紹介で知った:
映画そのものについては、余裕があったら書くこともあるかもしれない。
早く着いてしまったので、しばらく吉祥寺をぶらついた後、くまもと県物産センター吉祥寺店で漬けアミといきなり団子を買って、団子食べ食べ、「うっかり八兵衛」状態でバウス・シアターへ。
漬けアミを買うとき、店のおばちゃんから「九州の方? 九州の人じゃないと漬けアミなんてわからんもんねぇ」と言われた。前回も言われた。漬けアミとは、九州ではおなじみのオキアミの塩辛で、ごはんに乗せて食べてもよし、お酒のアテにつまむもよしの珍味。
東京には漬けアミを売っている店が少ない。ネットで探したときに、漬けアミは韓国でも「チョッカル」「セウッジョ」の名でおなじみの味だということを初めて知った。漢字にすると「塩辛」「蝦塩」(または「蝦醤」)なのではないかと思う(自信なし)。
漬けアミは、てっきり九州のものだと思っていたが、東シナ海を中心とするアジア諸地域で広く愛されている食品らしい。韓国以外にも、台湾や香港でも食べられている。
日本は四方を海で隔てられた島国だと考えられがちだが、網野善彦風に言えば、朝鮮半島・中国大陸・台湾と「海の道」で結ばれている。漬けアミの分布からも、そのことが判る。
日韓が、竹島/獨島を取りっこして対立しているが、話をひっくり返して言えば、このことは、歴史的に日韓が時空間を共有してきたことの証左でもある。『戦場でワルツを』を観た夜、家で漬けアミを食べながらそんなことを考えた。
ずいぶん前に、職安通りの韓国広場に行ってみたらチョッカルが売られていたので、「これで吉祥寺に行かなくてすむ」と喜んだ。買って帰って食べてみたら異常に塩辛く、所どころに塩の固まりすら入っていた。韓国では主に、キムチの材料や鍋物などに塩味・旨味を加える調味料として使うらしい。
韓国のチョッカルの味は、私の好きな漬けアミの味とは違っていた。残念ながら、こればっかりは譲れない。たまたまハズレを引いてしまっただけかもしれないけれど。
漬けアミは吉祥寺に限る。
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