ラジオ女子、聴取率を牽引 中学生、テレビやネットじゃ物足りない?(MSN産経ニュース、2010年1月2日(土))
○「ラジオ女子、聴取率を牽引 中学生、テレビやネットじゃ物足りない?」(MSN産経ニュース、2010年1月2日(土))
ラジオずきな方はすでにご存知かもしれないが、下記の記事がMSN産経ニュースのウェブサイトで発表された:
「ラジオ女子、聴取率を牽引 中学生、テレビやネットじゃ物足りない?」(MSN産経ニュース、2010年1月2日(土))
しばらく低迷していたラジオの聴取率が、10代を中心とした若者の間で上昇のきざしを見せている。牽引(けんいん)役は女子中学生だ。好きな音楽やタレントをとことん追いかけるこの世代特有の情熱が、テレビやインターネットだけでは飽きたらず、ラジオにまで進出しているようなのだ。(佐久間修志)
0.3%が一気に1.9%
ビデオリサーチの首都圏ラジオ調査によると、ラジオの個人聴取率(週平均)の学生(中高大学生)平均は、ヤングタイムと呼ばれる午前0〜5時で、平成13年10月の2.5%から、じりじりと下降。17年からの5年間は、1.7%と1.0%の間を行ったり来たりしている。
21年10月は、1.7%と回復したが、ここで特筆すべきは中学生の数値。0.3%から1.9%と、1.6ポイントも回復し、13年をも上回った。高校生と大学生がそれぞれ0.1ポイント、0.4ポイントしか回復していないのと対照的だ。
現場が強調するのは女子中学生リスナーの存在だ。中高生に人気のTOKYO FM「スクール・オブ・ロック!」の森田太プロデューサーは「秋口から急に番組のネット掲示板の登録者が増えた。多くは14〜15歳で、特に女の子の書き込みが目立つ」と明かす。
文化放送の若者向け番組「レコメン!」でも、人気お笑い芸人、U字工事の罰ゲームを募集したところ、中高生から30分で約500件のケータイメールが寄せられた。大半が女子からという。大河原聡編成部長は「聴取率のいい番組を見ると、女の子が聞いてくれている印象」と話す。
ネット検索で“発見”
こうした女子中学生は、好きなタレントや音楽を追いかけるうち、ラジオに行き着いたとみられる。特に最近は、ネットでアイドル情報を検索するうち、ラジオ番組の存在を知るケースが多いという。
自らもラジオ好き中学生女子だったという漫画家のしまおまほさんは「中学生の女の子は、好きなタレントの情報はなんでもほしいという世代。ラジオの“ちょっと背伸びした感じ”もプラス要因」と分析する。
ピンポイント…捕まえられる?
ただ、「中学生にラジオの聴取習慣が出ていると考えるのは早計」と、電通ビジネスデザイン・ラボの大越いづみ室長は慎重な見方を示す。「中学生女子はまだ、自分の好きなコンテンツをピンポイントに追っている段階。ラジオ局がこうしたリスナーを引き続き捕まえられれば、ラジオ回帰が進む可能性も十分ある」と話している。
ラジオに関する明るい話題なので歓迎したいところではあるが、いくつか引っかかることがあるので、この記事について考えてみたい。
まずはビデオリサーチのサイト
まずは基本。この記事の元になっているビデオリサーチのデータを確認してみようと思い、サイトにアクセス。
このサイトの「データコーナー」で聴取率関連のデータを見ることができる。ただし、無料アカウントの取得が必要。さらに、それほど詳しいデータは公開されていない。
○データコーナー|ビデオリサーチ
※アカウント取得が必要
従って、記事にある「午前0〜5時の中学生の個人聴取率」のデータを閲覧することはできなかった。一般人はここまで。残念。アプローチを変えざるを得ない。
牽引役は女子中学生?
次は、記事の論理展開に注目。
記事冒頭に「しばらく低迷していたラジオの聴取率が、10代を中心とした若者の間で上昇のきざしを見せている。牽引(けんいん)役は女子中学生だ」とある。
しかし、示されているデータは「中学生」のものであり、「女子」の部分にはデータの裏付けがない。「現場が強調するのは女子中学生リスナーの存在だ」以下の記述はあくまでも関係者への聞き取りに基づいた記述であり、この前後で明らかに記事の性質が変化している。
論理的なつながりを滑らかにするには、「とりわけ女子中学生の聴取率の上昇が顕著で○○%から××%に上昇している」のような、具体的な数字を含むブリッジが必要だが、記事では突然、女子中学生に話が絞り込まれてゆく。
0.3%から1.9%って何人?
次に数字に注目してみる。
この記事の肝である「ここで特筆すべきは中学生の数値。0.3%から1.9%と、1.6ポイントも回復」の部分について考えてみたい。
ビデオリサーチのデータに戻って、この数字の意味を考えてみたい。
ビデオリサーチによるラジオ聴取率調査は、東京駅を中心とする半径35km圏内の12〜69歳の男女3000人の個人を無作為系統抽出法でサンプリング(標本抽出)し、調査票を一括郵送・回収する「日記式郵送留置調査」で行われている。
ここで、12〜69歳の男女個人3000人がどの性別どの年齢にも偏りなく分布していると仮定する。この仮定に基づけば、各性別の各年齢に含まれるサンプルは、3000÷2÷58=25.862069人となる。中学生を、13、14、15歳と考えると、聴取率調査の対象となっている中学生の男女は、25.862069×2×3=155.172414人となる。
この場合、0.3%から1.9%への上昇は、人数に直すと0.46551724人から2.94827587人への上昇を意味する。四捨五入すると、155人中、0人から3人への上昇である。
もちろん、10月の時点で12歳の中学生、15歳の高校生もいる。
従って、12歳が全員中学生の場合、サンプルの中学生の人数は最大の206.896552人になり、0.3%から1.9%への上昇は0.62068966から人3.93103449への上昇を意味する。四捨五入すると、207人中、1人から4人への上昇である。
15歳がすべて高校生の場合、サンプルの中学生は最小の103.448276人になり、0.3%から1.9%への上昇は0.31034483人から1.96551724人への上昇になる。四捨五入すると、100人中、0人から2人への上昇である。
(実を言うと、このエントリーを書いたのは、この計算をやってみたかっただけなんですけどね。)
統計として意味のある数字か?
ビデオリサーチのラジオ聴取率調査は、3000人をサンプリングしているので、全体としては統計として意味のあるものになりうる。しかし当然ながら、細かいデータを出すために条件を絞り込めば絞り込むほど母集団に含まれる人数は少なくなる。
上記のように、サンプルに性別・年齢の偏りがないと仮定すれば、中学生に関するデータは約100〜200人のサンプルに基づくものとなる。私は統計の専門家ではないので確かなことは判らないが、統計上意味のある数字を引き出すためには、少なくとも1000や2000のサンプルは必要なはずだ。
100〜200人のサンプルに基づくデータであれば、人数が1人ふえるだけで聴取率はかなり上昇する。
無作為系統抽出法
上記の話は、あくまでも、サンプルが各性別・各年齢に偏りなく分布しているという仮定に基づいた話だ。
ビデオリサーチのラジオ聴取率調査のサンプリングは無作為系統抽出法で行われている。すべてのサンプルをひとつづつランダムに抽出する単純無作為抽出法に対して、無作為系統抽 出法は、最初のサンプルを無作為に抽出し、最初に抽出されたサンプルを基準にして、ある一定のルールに従って残りのサンプルを自動的に抽出する。例えば、 最初のサンプルを無作為に抽出し、最初のサンプルを基準に、すべてのサンプルに付された番号に従って等間隔に抽出するのが一般的な方法である。
従って、サンプル性別・年齢別分布に偏りが生じる可能性も充分ある。ここで偏りを排するための方法的なコントロールがなされているとすれば、無作為系統抽出法とは言えない。そのような方法的なコントロールが必要な場合は、層別抽出法などの方法が適当なはずである。
無作為抽出法に拠る場合、中学生サンプルの人数に極端な多寡が生じる可能性がある。2009年8月の調査に比べて、9月の調査での中学生のサンプルが極端に少ない場合、リスナー実数の急増を伴わない聴取率の急上昇が起こる可能性は充分にある。
まとめ
今回のデータからラジオ人気回復の兆しを読み取るのは、やや拙速ではないだろうか。次回以降の数字が出てくるのを待たなければ何とも言えないと思う。
邪推の範囲を出ないが、中学生のラジオ聴取率の上昇のデータに触れた記者が、予断に基づいて「ラジオ女子」の着想を得て、それに沿った取材を関係者に対して行ったのではないか、と私は考えている。
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コメント
先日、ローソンに行きますと、スクール・オブ・ロックのグッズ(クリアファイル)が並んでおり、大変驚きました。
この番組が人気が高い、という話は知っておりましたが、番組グッズが販売される勢いとは知りませんでした・・・。
投稿: とくながたかのり | 2010年1月20日 (水) 21時02分