文化系トークラジオ Life(TBSラジオ、2009年5月24日(日)25:30-28:00)
○「文化系トークラジオ Life」(TBSラジオ、2009年5月24日(日)25:30-28:00)
この日のテーマは「現代の現代思想」、ゲストは東浩紀。
期待していた人が多いと思うけれど、個人的にはやや期待薄。「Life」的テーマ・「Life」的ゲストではあるものの、「なんで、今?」という唐突な印象もあった。どうやら近ぢか出る『思想地図』vol.3 の最新号のPRらしいと判り、「な〜んだ」と期待値がもう一段下った。
ただ、聴いていくうちに、だんだん面白くなっていった。でも深夜には情報量が多くてちょっとしんどかったかも。「まだ1時間しか経ってません」(鈴木謙介)ってホントだよ。
鈴木謙介の声やしゃべり方が、ちょっとオードリー若林正恭っぽく聴こえたりするんですが。どう?
私には東浩紀を語る資格はございません。
私が読んだことのある東浩紀の著作は『存在論的、郵便的——ジャック・デリダについて』(新潮社、1998年)、『動物化するポストモダン——オタクから見た日本社会』(講談社現代新書、2001年)、『ゲーム的リアリズムの誕生——動物化するポストモダン2』(講談社現代新書、2007年)の3冊のみ。私には東浩紀を語る資格はございません。
私の周りのオジサマたちのなかでは、東の評価は分かれていた。概して否定的な人が多かったけれども、『中央公論』2002年7月号〜2003年10月号の連載「情報自由論」を好意的に評価する人はちらほら、という感じだった。否定派おやじ連に誘導されるのもなんなので、「一回自分で読んどくか」と思って『存在論的、郵便的』を手に取った記憶がある。これが最初。その結果、東を否定するでもなく、酔うでもなくという中途半端な立場に落ち着く。
『動物化するポストモダン』は東にとって、サブカル・ライターとしての仕事と批評家としての仕事との結節点とのこと。この本を読んだ時は、サブカル・ライターとしての東を全くフォローしておらず、同書に事例として登場するPCゲームなどの作品もほぼ全く知らなかったけれど、援用されている理論や論理展開を頼りに主張を理解することはできたつもり。解らない所を友だちのオタクに読ませて意見を求めたら、「概ね同意できる」と言っていた。でも同時にその友だちは、「萌えは理屈じゃないんだぁ!」と強く主張してござった。
『ゲーム的リアリズムの誕生』を読んで「オタク話で、そこまで日本社会が語れるのかいな?」と思って以降フォローしていない。
番組の内容についてひとことふたこと
「Life」のサイトでポッドキャストで聴けるし、そこに項目レジュメっぽいまとめも載るので、詳しくはそちらで:
○2009年5月24日「現代の現代思想」Part1
○2009年5月24日「現代の現代思想」Part2
○2009年5月24日「現代の現代思想」Part3
○2009年5月24日「現代の現代思想」Part4
○2009年5月24日「現代の現代思想」Part5
よって、私が気になった箇所についてのみ感想・コメントみたいなことをダラっと書いてみる。
(1)思想は役立つか?
その「動物化」って言葉でさぁ、その、何となく世の中が少しね、見晴らしがよくなったって人はいるわけですよ。なんか、その「見晴らしのよさ」ってのは、僕は「役立つ」って言葉にすごく近いのかなっていう感じがするんですよ。(斎藤哲也)
これはよく解る気がした。私は人文書を読むときは、そういう「見晴し」を求めているという側面が多々ある。でも、私としてはジュディス・バトラー(Judith Butler)以降はそういうものに出会っていないというのが実感。
(2)政治と思想の結びつき
政治が社会を変えられるかって言った時にね、その、20世紀っていうは、まぁ冷戦構造とかあったせいで、思想がすごく容易く政治と結びついていた時代なんですよ。
でも、もともと思想ってのは、そんなに簡単に政治と結びつかないですよ、ね。あの、何て言うか、つまりイデオロギーの時代は終ったわけですよ。で、つい20〜30年前までは政治っていうのは、ほとんどイデオロギーと同義だったんですよね。だから、[……]思想について語ることがそのまま政治になったと。
で、そういう社会状況が失われたあと、じゃあ、ものを考えるってことが社会を変えるってことにどういう風に結びつくかって言っても、そう簡単にはいかないですよ。(東浩紀)
また、「知識人の政治性」というのは、陣営の区分けが明瞭だという前提で、どちらかの陣営に与することに他ならない、とのこと。
まぁ、これは確認ということで。
(3)政治と思想の力
自分の立場を括弧入れする力っていうのが、政治とか思想の力なんですよ。(東浩紀)
今回の放送では、ここがいちばん面白かった。
ピーター・シンガーのような原理主義的功利主義者がかえって、「功利主義的に考えれば、先進国の富の3分の1を発展途上国に分配すべき」という対極の主張にたどり着くという例や、ヘウムノで親戚を亡くしたユダヤ系の知識人のシンガーが、ガス室がなかったと主張する歴史修正主義者の記者を釈放すべきだと主張したという例から始まる話が興味深かった。釈放できないのであればムハンマドを諷刺画に仕立てて侮辱した者に死刑宣告するイスラムと同じで、最も崇高だと自分が信じるものが侮辱されても耐えるのがヨーロッパ的自由主義の本質であり、ガス室の話題についてもその例外でない、とか。
思想とは、人間的共感とは別の次元まで達することを可能にするという話。
曰く、巷間「政治的」と呼ばれるロジックは共感のロジックでしかない。思想とはこれとは異なる次元の議論を可能にするものであり、自分の立場を肯定するためにロジックをつくるのが思想ではない。政治も、ほんらい私的利害を超えたものである(ポリス/オイコスの区別)。
しかし、すべての「普遍的」言説は、普遍性を装った私的な利害の発露に過ぎないというのが20世紀後半の人文系科学の結論。
かかる状況で普遍性を担保しうるのは無意識のレヴェルしかない、というのが東の結論のようだ(「かつてアーレントが夢見たポリスの空間は、Google しかない」)。
私としては、「無意識や Google がアルキメデスの点になり得るのだろうか?」「普遍性を担保するものを求めることは可能だろうか?」と疑う。「20世紀後半の人文系科学の結論」によって普遍性の底が抜けてしまった以上、私的な利害の発露しかあり得ない。これは仕方のないことなので、私的な利害をぶつけながら、そこに justice があるかを自他に問うていくしかないのではないかと私は考えている。自身が just であるよう努めつつ、他者の injustice を問い質し、問い質すために自身が just であるか顧みる、みたいな。全体意思のレヴェルでジタバタしつつ、justice を媒介にして一般意思を臨む、的な。
普遍性なんてないんだし、また、小心者の私には、「パワー・ポリティックスでいいんだ、政権取ろう」という「私的利害で突っ走る派」の考えも乱暴に思える。justice という概念を、間主観的だけれども、普遍性に近似な効果を現出させ得る概念としてとらえようというのが私の魂胆。
ちなみに、justice と英語で言ってるのは、カッコつけてるわけじゃない。うまく訳さないと色がつくので放ったらかしてあるだけ。
東が読み直しているというルソー、読んでみようかな。
最後にちょっと揚げ足取りだけれども、ポーランドの絶滅収容所は「ヘルムノ」ではなく「ヘウムノ」では? 綴りは "Chełmno"。英語なんかでは「ヘルムノ」なのかな? カタカナにした時点でどうせ全部間違いだと割り切りつつ、それでも固有名詞は元の言語に近い発音のほうがいいというのが私の考え。ポーランド語じゃないけれど、Ronaldinho を「ロナルジーニョ」って言わないでしょ。
次回の「Life」
次回は Microsoft 7 の宣伝だそうです。
ちなみに、BLOCKBUSTERのCMにはちょっとニヤけた。パロディーCMにしか聴こえなかったけど。おもしろい。
最後に
日曜深夜にこのトークはチョッと疲れたなぁ。
また、なんだかんだで思想のトレンドも広告代理店がつくっていると解って、結局ゲンナリ。
制服のスカート、長いですね。
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コメント
トラックバックありがとうございます(チキンなのでお礼を言うのが1年も遅れてしまいました…)。
私も『ジェンダー・トラブル』読みました。衝撃的でしたね。
投稿: もん亭☆ | 2010年5月10日 (月) 16時49分