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ラジオな一曲(2):Steely Dan, "FM" (1978)

○ラジオな一曲(2):Steely Dan, "FM" (1978)

 

前回が "AM Radio" だったので、やや安易ですが、今回は "FM" です。


Steely Dan, "FM (No Static at All)" (1978)

 

Steely Dan は、私がいちばん好きなグループです。

ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen, vo & k)とウォルター・ベッカー(Walter Becker, g & b)のふたり組です。最近の話題としては、ベッカーのソロ・アルバム Circus Money(2008)が出ました。

この "FM" という曲は、元もとはFMラジオ局を舞台にした映画、FM(1978)のために書かれたテーマ曲で、Steely Dan のオリジナル・アルバムには入っておらず、ベスト盤などで聴くことができます。Steely Dan のふたりはこの曲を気に入っているのか、ライヴでは度たび演奏しているようです

映画、 FM(1978)は、日本版DVDは出ていません。アメリカではDVD化されているものの、リージョン違いで日本のプレイヤーでは再生できません。輸入もののVHSは手に入るようです。映画は全くヒットしなかったそうなので、Steely Dan のファンが買っているのかもしれません。サウンド・トラックは、なかなか豪華なコンピレイション盤の趣きで、ヒット曲満載なところがいかにもラジオ局の映画という感じです。


映画、FM の予告編
 

歌詞の内容は、夜中に少年がラジオに向かってブツブツ独り言を言っている感じではないでしょうか。

"Worry the bottle mamma, it’s grapefruit wine"(「ボトルをよく見ろよ、ママ。ただのグレープフルーツ・ワインじゃないか」)という台詞から想像するに、時どきオカンが「まだ起きてんの? こら!お酒なんか飲んで」とか言いながらちょっかいを出しにくるのでしょう。

「ただのグレープフルーツ・ワイン」と言いつつ、歌詞全体からは酩酊している感じが漂っています。

最初、"Worry the bottle" の意味が解りませんでした。"worry" の意味としてよく知られているのは自動詞の「心配する」「気に病む」ですが、どうやら、犬などが骨やおもちゃを弄ぶ様子を "worry" という他動詞を用いて表現するそうです。くわえたと思ったら地面に落として、また噛んでは振り回し……という様子を「気になってしょうがない」と見立てるようです。「ほら、気が済むまでよく見てみろよ。こんなの酒のうちに入らねぇよ」といった感じではないかと解釈しました。日本風に言えば、高校生が缶チューハイあたりを飲んで、「こんなの酒のうちに入らねぇ」といきがっている感じでしょうか。

ちなみに、最近は "Bury the bottle" と歌うことが多いようです。

"Put off your high heel sneakers" という歌詞ですが、トミー・タッカー(Tommy Tucker)の "Hi-Heel Sneakers" (1964) がちょうどオン・エアーされたのでしょうか。それに引っ掛けて「そんなヘンテコなもん履くなよ!」と口を衝いて出た言葉かもしれません。例えば、ECHOESの「ZOO」(1989年)の「愛を〜下さ〜い〜」の部分で「あげないよ!」とツッコむような感じで。

これに加えて、「ムードさえよければ、女の子たちは、かかってる曲なんか気にしないようだ」(The girls don't seem to care what's on/As long as the mood is right) とありますが、「女子は音楽なんて解りゃしないんだ」という、童貞音楽愛好少年の陥りがちな思考そのものです。確実にモテないでしょう。

"The girls" の話が出てきますが、その場にいる女子ではなく、自身の鬱屈した青春が "The girls" と対比されているのでしょうか。女子を忌避しつつ気になってしょうがない、思春期ならではの心情。

また、選曲の退屈さにも不満がありそうな様子です(Nothin' but blues and Elvis/ And somebody else's favorite song)。

まとめると、おそらくこの曲は、弱い酒を飲んだりしてツッパっているものの、実は内向的で内弁慶な童貞音楽愛好少年の鬱屈した夜をうたった歌でしょう。当時のラジオを巡る風景や気分を写し取った曲という風情です。シニカルで偏執狂的なところが Steely Danっぽい。

この曲はそれほどでもありませんが、Steely Dan の詞の多くはビート・ジェネレイションの影響を色濃く受けていると思われます。よって概して難解です。CDのブックレットの訳詞が役に立たないことが多く、それどころか英語のネイティヴ・スピーカーも解釈に苦慮するようで、歌詞の意味を分析・解説するサイトもあるほどです。

fever dreams Steely Dan lyric interpretations /shared delusions (英語、InternetArchive内)

STEELY DAN SECOND ARRANGEMENT(日本語)

最後にひとつラジオっぽい話をすると、歌詞の "No Static At All" の "Static" とは、停波中の状態やホワイト・ノイズのことを指し、 "No Static At All" とは「停波なし」「ノンストップ放送」といった意味のようです。"As long as it plays till dawn" という歌詞とも一致します。

ひょっとしたら別な含意もあるかもしれません。違う解釈のある方、是非コメント下さい。

Steely Dan, "FM (No Static At All)" (1978)

Worry the bottle Mamma, it's grapefruit wine
Kick off your high heel sneakers, it's party time
The girls don't seem to care what's on
As long as it plays till dawn
Nothin' but blues and Elvis
And somebody else's favorite song

Give her some funked up music, she treats you nice
Feed her some hungry reggae, she'll love you twice
The girls don't seem to care tonight
As long as the mood is right

FM - no static at all

Give her some funked up music she treats you nice
Feed her some hungry reggae she'll love you twice
The girls don't seem to care tonight
As long as the mood is right

FM - no static at all

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コメント

僕は、この曲が好きでサントラ盤買いました。映画は観てませんが・・・(汗)。
ちなみに今日 NHK-TVでFM放送40周年について放映があるそうですよ!(*゚ー゚*)

投稿: moondreams | 2009年3月20日 (金) 17時26分

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