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BATTLE TALK RADIO アクセス(TBSラジオ、2008年11月6日(木)22:00-23:40)

○「BATTLE TALK RADIO アクセス」(TBSラジオ、2008年11月6日(木)22:00-23:40)

「アクセス」のこの日のテーマは、「田母神・前空幕長の論文問題で考えます。「空幕長の役職を解いて定年退職させる」という防衛省の対応は妥当だったと思いますか?」。

番組の中では、退職金は田母神俊雄・前航空自衛隊幕僚長の勤続に対して支払われるものであるから、珍妙な論文を書いたから没収というのは筋違いだというトーンで、革新寄りの「アクセス」ながらも、なかなか冷静でよいと思う。

先日「爆笑問題 日曜サンデー」(TBSラジオ、2008年10月26日(日)13:00-17:00)での「活躍」も記憶に新しい「おっちょこちょいの軍事評論家」こと、ゲストの軍事ジャーナリスト・神浦元彰も舌鋒鋭く:

航空自衛隊ってのは昔からこのタイプの馬鹿が多いんです。あのねぇ、航空自衛隊はねぇ、どっちかというとねぇ、あの、特徴はねぇ、「勇猛果敢支離滅裂」って言うんですよ。ね。勇猛果敢なんですよ。カッコいいね、エラそうなことは突っ込んでねぇ、わぁわぁってね、大きな声で言うんですよ。だけども、その言ってる内容をよく見ると支離滅裂。

今回みたいに、やれ日本は濡れ衣きせられただとかね、帝国が……侵略戦争じゃなかったとか、わぁわぁ言ってるワリにはですねぇ、その、記者会見でではデすねぇ、自由に物が言えなかったらねぇ、北朝鮮と同じだとかねぇ、そんな支離滅裂なこと。馬鹿か。どこにねぇ北朝鮮と日本が同じの国があるんだ……言う人がいるんだつって、これが航空自衛隊の幕僚長ですから。

陸上自衛隊や海上自衛隊には陸軍士官学校や海軍兵学校からの伝統で、珍妙な馬鹿が飛び出すのを先輩が押さえるという機能が今でも働いているのだとか。それに対し、航空自衛隊は戦後からの組織なので、そういう機能が働かないのだとか。本当かどうか判らないけれども、話としては面白い。

ちなみに神浦によると、航空自衛隊が「勇猛果敢支離滅裂」なのに対し、陸上自衛隊は、準備は徹底してやるが想定外のことは何もできないので「用意周到動脈硬化」、海上自衛隊は、伝統は絶対に守るが誰の言うことも聞かないので「伝統墨守唯我独尊」だとか。「おっちょこちょいの軍事評論家」の汚名返上の大活躍だった。

実際に田母神論文を読んでみた。

内容としては、番組の出演者やリスナーが言っていたのと概ね同じ意見で、「それがどうした?」という感じ。論文は下記のサイトからダウンロードできる:

アパグループ第一回「真の近現代史観」懸賞論文募集

ダウンロードしたPDFファイルを開くとわずかA4で9ページ半程度の論文。最初はアブストラクトかと思ったが、これで全編のようだ。しかも字が大きいので400字原稿用紙15枚ぐらいだろうか(ヒマな人、数えてみて下さい)。タイトルは「日本は侵略国家であったか」。こんな大テーマをA4・9ページ半で論じ切るとはかなりの意欲作、あるいはかなり腕のある論客。読む前から既に香ばしい匂いがプンプン漂っている。

今回は、イデオロギー的な点を衝いても仕方がなので、論文としての出来に関してのみ言うと、ひとことで言えば「オリジナリティーがない」。

オリジナリティーのない論文は発表する意味がない。田母神論文に共感するブロガーなどの反応としては「当たり前のことが書いてある」「事実が書いてある」というものが多かったように思う。

確かに、文章が平易で、自由主義史観研究会や新しい歴史教科書をつくる会などのフォロアーであれば、馴染み深い主張を確認しつつス〜ッと読める軽い読み物風の文章だ。しかし、曲がりなりにも論文なのだから、「当たり前のことが書いてある」「事実が書いてある」だけでは意味がない。

また、論文のタイトルが「日本は侵略国家であったか」であるから、読むコッチとしては、「歴史研究の論文だな」という気構えで読む。歴史論文としての価値があるかどうかは、史料と理論の点で判断されるだろう。

史料の点で言えば、筆者の主張が史料に基づいて論証されているかが鍵になる。他には、未発見史料の発掘・紹介などもポイントが高い。しかし田母神論文はそのいずれも満たしていない。櫻井よしこの本や『諸君!』を読んで切り貼りした、大学1回生が書いたレポートの水準。まぁ、学術論文ではないので、そこまで求めるのは気の毒かもしれないが。

理論の点で言えば、もし彼が「自虐史観」と呼ぶ歴史観——有り体に言えばマルクス主義史観——に対する自身の理論の優位性を主張したいのであれば、「自虐史観」の内在的分析をやった上で、自身の歴史観のとの比較が必須だが、そのような検証はなされていない。読んでみた印象としては、田母神は、既存の帝国主義研究を「帝国は植民地を暴力的に収奪した」という主張(いわゆる「収奪論」)に代表させて、インフラ整備や教育などの例をぶつけつつこれを批判しているように見える(ちなみに、帝国による支配が植民地の近代化に寄与したとするこのテの主張は「民地近代化論」と言う)。

しかし、今どき単純な収奪論を展開している歴史家などほとんどいない。田母神は、自分に都合のよい、実在しないマルクス主義史家を仮構して批判した気になっているに過ぎない。ついでに言えば、田母神が日本は侵略国家ではないことの根拠として挙げているインフラ整備や教育についても、「植民地近代」という切り口(先述の「植民地近代」とは異なる)で批判的に検証する潮流が存在する。そんなことなど、田母神は知りもしないだろう。先行研究のサーヴェイができていないという点でも致命的。

ついでに論理構成の点で言えば、田母神論文は、冒頭でテーゼを提示し、本論でいくつかの事例を列挙し、結論でもう一度自身の主張を提示している。これは、英語圏のアカデミック・ライティングの初歩の初歩で、アメリカの中高校生が学校で習うスタイル(テーゼで事例を挟むことから「ハンバーガー」などと呼ばれる)。微妙なテーマを論ずるスタイルとしてはシンプル過ぎるかもしれない。また、文と文との論理的つながり、段落と段落との論理的つながりが甘く、そのせいか全体の構成にキレがない。例えば、本論で2度登場する「さて」が、論理的統合性を著しく損ねている。

田母神の主張の根幹は、コミンテルンに操られた中国国民党やアメリカ合衆国に日本はハメられたというもので、コミンテルン謀略論に御執心のようだ。そういう側面もあるかもしれないが、戦争状況の背後にある利害の布置連関は複雑で、輻輳する様々なラインを繊細に検証するつもりがないのなら、このような論文は書かないほうがよい。今回のように恥をかくのがオチだ。

ひょっとしたら、安倍晋三が腹をこわして退陣したのもコミンテルン残党の謀略で毒を盛られたのかもしれないよ。航空幕僚長の激務から解放された定年退職後の時間を使って調べてみてはどうだろうか?

受賞者のリストを見ると、大学の研究員もいる。こんな珍妙な論文に負けてしまって、研究と論文の執筆を生業にしている大学の研究員として大丈夫かいなとご心配申しあげます。

まぁ、邪推して言うならば、何を論ずるかではなく誰が論ずるかが重要だったのかもしれない。航空幕僚長が主催者の主張をなぞる論文を書いたという点が受賞の理由かもしれないけれども。

マスメディアではなかなか言いにくいかもしれないが、「航空幕僚長ほどの威信ある立場の人物が、APAおやじのキワモノ懸賞なんかに応募してんじゃないよ!」と思っている人は多いのではないだろうか。大将なんだからぁ(谷垣禎一風)。

ただ、ひとつ注意しておかなければならないのは、たとえ田母神論文が珍妙だとしても、このような論文が世に出てくる背景としては、こういった主張が許容され、場合によっては歓迎される土壌が厳然として存在していることも意味している。茶化してばかりはいられないかな。

※追記(2008年11月8日)

『週刊新潮』2008年11月13日号に、田母神論文についての記事が出ていた。

この記事は、田母神論文の概要紹介→論文の不出来を一旦指摘→しかし「自虐史観」に疑義を呈する田母神の情状を酌量→朝日新聞叩きというお馴染みの流れ。「矢来町をどり」とでも言っておこう。

また、『週刊新潮』の記者は、

確かに、論文には他にも、

<もし日本が侵略国家であったというのならば、当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国はどこかと問いたい。よその国がやったから日本もやっていいということにはならないが、日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない>

といった、至極真っ当な主張も見られ、[……]。

と言うが、「日本だけが侵略国家だ」などと主張している人は本当にいるのか? そもそもこの主張は「至極真っ当」か? 記名記事ではなかったので誰が書いたのかは判らないが、この記者、田母神に負けず劣らずヒドい。

ただ、この記事で面白かったのは、懸賞論文の選考委員4名の名前とコメントが出ている点。馬鹿を選んだ馬鹿がどこのどいつなのか判明:

・渡部昇一(上智大学名誉教授)審査委員長

・中山秦秀(自民党衆議院議員)

・小松崎和夫(報知新聞社長)

・花岡信昭(ジャーナリスト)

中山秦秀(自民党衆議院議員)は、多忙だったので自身では選考を行っておらず、秘書がやったとのたまっている。名前を貸した以上は全部自分でかぶるのが筋。

また、田母神が自説と同じ見解として引用した秦郁彦が

私の著書『盧溝橋事件の研究』も引用されています。が、そこで私は”事件の首謀者=中共”説をはっきり否定しているのです

それを私が中共派であるかのように書くのは心外です

と難色。

田母神は、まともな論文が書けないだけでなく、本すらまともに読めないらしい。

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