Early Morley Bird(J-WAVE、2008年1月13日(日)5:00-6:00)および、i-morley(2008年1月5日(土)、2008年1月6日(日))
○「Early Morley Bird」(J-WAVE、2008年1月13日(日)5:00-6:00)、
「モーリーのスズナリ通い」(i-morley、2008年1月5日(土))および
「若旦那とお芝居」(i-morley、2008年1月6日(日))
※一部加筆しました。2008年1月20日(日)
「風刺を読み取って面白いですか?」——詳細は失念したが、この言葉だけは非常によく憶えている。何号か前の『週刊文春』の映画評で、とある評者がとある映画のエンターテインメント性の欠如と不親切さについて述べたひと言だ。ことによると、この言葉の印象が強くて他をすべて忘れたのかもしれない。それから折に触れては反芻し続けている。
※今回は長いです。3パートに分けました。
(1)「Early Morley Bird」(J-WAVE、2008年1月13日(日)5:00-6:00)
番組冒頭で、モーリー・ロバートソンが芸能界の「ある仕事人」とグローバリゼイション状況における現実世界と芸能界の関係について語った内容が紹介された。グローバリズムが芸能界のあり方を構造的に変えるのではないかというモーリーの提題に対して、件の「仕事人」は苛立ち、キレつつ次のように語ったとモーリーは要約した:
良い芸術をやることと911とかドキュメンタリーとかを考えることは、全く関係がない。[……]日本人はそんなものには興味がないんです。[……]アメリカで黒人の大統領が誕生しようが、日本人の生活には何も関係ないし、日本人の意識はそれで変わったりはしない。それは日本の文化のあり方なんだ。[……]つまり、そんな世界のことはイチイチもちこむな。芸能界というのは楽しいところなんだ。みんなが楽しいものを見たくて来ている。そのお客さまを精一杯楽しめる[楽しませる?]ことを芸能人は考えていればいい。それが表現の匠である、と。
同「仕事人」によると、ナインティナインとオバマの二者択一なら、みんなナインティナインを見る、のだとか。オバマで駄目なら海原お浜・小浜ならどうだ!?——と思ったが、ウェブラジオFMCの「QIC」2008年1月13日放送分(第588回)D枠でも同じネタを使っていた。
さて、普段「Early Morley Bird」は聴くが、i-morleyは、「Early Morley Bird」で言及された時以外はほとんど聴いていない。今回は面白そうなので聴いてみよう。
(2)「モーリーのスズナリ通い」(i-morley、2008年1月5日(土))
「Early Morley Bird」で使っていた「仕事人」という表現はコッチの「仕事人」との掛け言葉だったのだろうか? ちなみに、この「仕事人」とは俳優・脚本家・演出家の松村武。
松村自身の言葉で言えば「笑えない芝居はウケない」「お客さんが喜んでくれるものを書きたいという論理だから、お客さんが笑わないヤツを喜んでくれる世界であれば笑わないやつを書く」などなど。
話を聞き出すにあたって、モーリーと池田有希子が話のギアを噛み合わせようとする努力には頭が下がる。松村が説く「今ここの笑い」に対して、モーリーがローワン・アトキンソンを引きながら「今ここの権力に対する抵抗としての笑い」という切り口をぶつけて巧く話を聞き出そうとするくだりは、もはや泣けた。
ただ、語りにおける松村のアティチュードについては精査の余地がある。言葉通りの単純で逡巡のないポピュリスト宣言なのか、全て解った上でのシニシズムなのか? 後者を通って先鋭な前者に行き着いたという感じなのだろうか? 結局、本人にしか解らないが、松村を単純化して批判するのは危険かもしれない。ただ、「シニシズム」の語源は「κυνικ o´ ?(=犬のような)」、どうせ犬なら、吠えて噛み付く犬になれ!
いずれにせよ、ここでモーリーと松村が意気投合しなかったのは結果として良かったかもしれない。私個人としてはモーリー寄りの立場だが、松村の話を聴くことで、こちら側の立場をいったん相対化できた。おそらく日本のエンターテインメント業界に関わる人材および「消費者」の大勢は松村と同じ考えだろう。911などを題材に取ると、余計な尾ヒレがついてくるので「純粋な作品が作れない」という松村の言葉は象徴的。「余計なものって?」という池田のナイスな突っ込みも透かされ、話の深化にはつながらなかった。
つまりは、日本で時事問題をエンターテインメントにして成功した例はほぼないということだろう。逆に言えば、今なら誰でも先駆者になれる、席が空いているということか。でも大泉洋がサッシャ・コーエンみたいになるとも思えないし……。ザ・ニュースペーパー、マッド・アマノ、CLUBKINGなどの例もあるにはあるが、グローバリゼイションや新自由主義の構造的な批判にはなっていない。爆笑問題の太田光はこのジャンルに一歩深く踏み込んだが、彼の場合は笑えない方に振れてしまった。
ここでふと思ったのだが、モーリーが日テレの五味一男と対談したらどうなるだろうか? いつだったか伊集院光のラジオで聞いた話だと、五味は、番組の成功の尺度として、いまや視聴率だけではなく「売り上げ」を云々し始めているらしい。これはこれで、別の意味で新自由主義対応だけれども。Wikipediaによると「ヒットを生むための「五味理論」はテレビ業界だけにとどまらず「リクルート」「アサヒビール」「Yahoo」など一般の企業からの講演も殺到している」のだとか。
鑑賞者が諷刺を読み取るだけの鶏ガラみたいなものでなく、同時にエンターテインメント性を備えた肉もついている表現とは容易ではない。松村によると日本人は啓蒙的な内容は毛嫌いするそうだが、バカを笑うのは好きらしい。ならは、バカな啓蒙主義者を嘲笑する芝居でもつくって、芝居が進むうちうに、「アレ? バカなのはあいつ? それともオレ?」といつのまにか反転するような仕掛けにすればイケルだろうか?
とはいえ、私はその場限りの笑いも嫌いではない。最近、世界のナベアツのノンセンスさに心を打ち抜かれている私。アレは別の意味で世界で通用すると思う。イチ、ニ、サ〜ン、シ、ゴ、ロクゥ〜……。
(3)「若旦那とお芝居」(i-morley、2008年1月6日(日))
何か、ピロウ・トークみたいな放送だな、というのが第一の感想。
「「Across the View」じゃなきゃイヤなんだ!」と言う構成作家の話以降の部分はラジオ馬鹿として面白かった。
「Across the View」(J-WAVE、1989年-2001年9月)は本当に懐かしい。モーリーが担当しているときはよく聴いていた。リスナーと電話でセッションしたり、国際電話で海外の友人や恩師などと話したりしていた。当時はリスニング力がイマイチだったので電話の音質の英語は正直しんどかったし、番組内容も当時の私には時どきオーバーフロウ気味のときもあったが、聴き逃せない雰囲気の番組だった。
モーリーはあの番組に一期一会的なものとして取り組んでいたそうだ:
再演する『CATS』のような意識じゃないし、そういう四季のようなスケベなカネ取り主義じゃなくて禁欲的に、オレに入ったカネはすべて使っちゃってたからさぁ、全く発想が違うワケ。
受け手側が、そういう再演の芝居のように「まったく同じにやってほしい」っていうと、すっごい傷つくワケよ。[……]バカじゃねぇのか、お前は。
聴いてるやつも演ってるやつもバカじゃねぇか。エルビスのショーじゃネェんだ。
当時番組を聴いていた私も番組全体をインプロヴィゼイションというかインタープレイというか、そんな感じでとらえていた。今思えば、あんなに好きな番組だったのに録音したことが一度もないのが不思議。アヤシイ深夜に、アヤシイ番組で、アヤシイお兄さんが、アヤシイリスナーと、アヤシイ事件を起こしている、という感じで聴いていた。番組に充満していたあの訳のわからないエネルギーは、一回性の成せる業だったのかもしれない。
モーリーの言う通り、番組の企画を支える情報インフラも、社会・経済・思想などなど番組を取り巻く文脈も異なる。しかし、地上波のラジオであんな番組、他では未だに聴いたことがない。
番組(i-morley)の終盤で「Across the View」の音源などをマッシュ・アップしたトラックが流れた。過去の番組音源は、元の文脈から切り離された断片、換骨奪胎された音の素材となり、新しい表現に再構成されていた。モーリーが「Across the View」について語った内容を作品化したような感じだった。
解ってはいるものの、音の素材をいつのまにか「番組」として意味を求めて聴こうとする自分を戒めたり戒めなかったり。
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