紺野 敦/工藤和穂『簡単BCL入門——世界の放送を受信せよ』(CQ出版、2007年)
○紺野 敦/工藤和穂『簡単BCL入門——世界の放送を受信せよ』(CQ出版、2007年)
去年出た本ですが、遅ればせながらレヴューします。
本の概要:
入門ということで、第1章でBCLの概要を解説したあとに、第2章では「一番身近なBCL」として、中波(AM)の遠距離受信に頁を割いている。国内の出力100kW〜20kWの局を中心に、一部韓国の局についても言及している。
第3章はいよいよ短波放送の章で、各バンドごとの特性と主要局の解説(この部分は割りと詳しく、一部は周波数なども紹介されている)、その後NHKワールド・ラジオ日本の解説、短波放送の活用法、受信報告書の書き方など。
第4章は「放送受信の歴史とこれから」と題して、NHK国際放送局、ラジオNIKKEIへの担当者へのインタヴュー、PLC(いわゆる「電灯線インターネット」)、デジタル放送などの話。
後半の半分弱はデータ的内容で、第5章は「短波ラジオを手に入れよう」と題した現行BCLラジオや受信機のカタログ。新製品が次つぎに発表されるようなジャンルではないので、当分はカタログとして有効だろう。SONYやAORなどのほかにアンドーインターナショナルやオーム電気の製品も一部紹介されている(『ラジオマニア2007』(三才ブックス、2007年)の巻頭インタヴューで宮川賢が手にもっているラジオも出ていた)。Panasonic が出しているBCLラジオは、今やRF-B11 のアナログ1機種だけとは。逆に言えば、SONY は頑張っているともいえる。
第6章は「放送局受信資料」で、国内のAM・FM・短波の周波数表と海外主要短波放送局の周波数とスケジュール表。
評価:
この本の一番よいところは、説明が難解でなく専門用語の多用もないところだ。私のような無線や電波の知識が何もない、コンテンツ志向のラジオ・ファンでも難なく読み通せる。入門書と銘打ちながら初心者には理解不能な本もあるが、この本はきちんと入門書の体を成している。
ただ、私の個人的な興味に照らして言えば、遠距離受信のコツについての記述が少ないのと、BCLの歴史についての解説が非常に薄いところが気になった。
おそらく、この本に興味をもった人は、自分なりにいくらかの断片的な知識を既に蓄えた状態で本を手に取っていると思われる。有り体に言えば、今どきBCLに興味をもっている時点で、もうマニア道の入り口に立っているようなものだ。習わぬ経を読む小僧が知りたいのは、正式なお経。門の中に足を踏み入れたら何があるのかに興味が湧いているのである。
具体的に言えば、まず、私のような素人が知らないような受信のテクニックを網羅して欲しかった。次に、受信テクニックを論理的に整理して理論的に解説して欲しい(もちろん入門者に理解できる範囲で)。私のような初心者があてにしている受信のコツは、科学的な根拠の理解を伴っていないので、いわば呪術的なものでしかない。雨乞いの類と大差ないのだ。背後にある根拠や理論が解って初めて、自分が受信の際に駆使していると思っているテクニックの意味が解るというものだ。自分が何をやっているか納得できれば、手探り状態からもう一歩先の工夫もできる。
BCLの歴史についての解説を厚くしてほしいと思った理由は、単に個人的に興味があるというだけのこと。放送の歴史と同時に、リスナーの歴史について興味があるのだ。BCLブームの頃の熱気に触れてみたいのである。
ともあれ、BCLに最近興味をもち始めたがどこから手を付けていいのか判らないという人は、一度手にとってみてもよい本だと思う。同じ出版者・同じ著者で中級レヴェルのBCL解説書の続刊を期待する。
蛇足——短波ラジオが高額だと感じる方へ
最近は中国製で短波放送を愉しめる安価で使えるラジオも多く出ている。
何だったら、短波ラジオを自作するという手だってある。
実は私は一度だけ経験がある。自作とはいえ、電子関係の知識がまるでない——割には、工具だけは一式揃えている——私には回路の設計などできるはずもなく、ネットで検索。ネットって本当に便利だ。「電子マスカット」というサイトが、とにかく解り易く、このサイトの「2石短波ラジオ」を言われるままにつくった。
「2石短波ラジオ」をクリックしたとき、私を含めた初心者は、1ページ目の回路図や回路の説明に面食らい、やる気をなくすかもしれない(本当はこういうのに詳しくなりたいのだけれども)。しかし、2ページ目以降は、とにかく親切。製作の過程が逐一写真で示されており、要は見たまま再現すれば何とかなる。出来上がりに対する不満は、「もっと耳にフィットするクリスタル・イヤホンってないのかな?」と思った程度。
私の場合は、ラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)・北京放送(中国国際放送)などをちゃんと荒川土手で受信できた。もちろん、高級なBCLラジオ並みの操作性や性能を期待するとガッカリするかもしれないが、つくる愉しみや、自分でつくったラジオで放送を受信したときの感動はプライスレス。ちなみに、私が初めての自作短波ラジオで放送を受信した想い出の場所には、今はホームレスの方が居を構えている。彼にとってもいい場所なんだな、あそこ。
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