Early Morley Bird(J-WAVE、2007年12月30日(日)5:00-6:00)
○「Early Morley Bird」(J-WAVE、2007年12月30日(日)5:00-6:00)
この日のゲストは、テルミン奏者の竹内正実だった。つい先日『大人の科学マガジン vol.17 テルミン』(学研、2007年)を入手したことをこのブログでも言及したばかりなので、寄寓と言えば寄寓。
上の通り、私の演奏ははっきり言ってネタの範囲内だが、下のような猛者もいらっしゃる模様:
番組に話を戻そう。竹内の生演奏もよかったが、やはり秀逸だったのはトーク。
うかつにも、マトリョーシカ形のテルミン「マトリョミン」の製造元の会社が竹内の会社だとは知らなかった。
竹内が、大阪芸術大学出身だというのは知っていたが、音楽工学を学んでいたとは。この音楽工学的な話が白眉だった。テルミン普及のために「かわいさ」という要素を加味するこという策から出発したが、菩提樹でできたマトリョーシカは音響的にも優れていて、本家テルミンよりもむしろ音がよいとさえ言われているのだとか。
さらに、マトリョーシカは手工芸品であるためひとつひとつに固体差があり、同じものがふたつとなく、また、内部も純然たるアナログ回路であるため、近年のデジタル楽器にくらべて非常に不安定なのだとか。面白い。
また演者による差異もあり、心音によるバイアスや呼吸による振動も音に影響するのだとか。シンセサイザーで出した音のピッチは「定規をあてて引いたような直線」であるのに対して、テルミン、マトリョミンの音は「名手がフリーハンドでサッと引いた直線」のようで、マクロでは直線だが、ミクロで見ると演者固有の揺らぎがあるのだとか。
演者として竹内は、テルミンの今後について「テルミンはこれ以上何も進化させないのがよい」「あとは使う人の問題だ」と語った。テルミンは「同じ電子や電気の力を応用してる訳ですけど、人間の方により高いスキルとかより豊かな音楽性だとか、人間の中に、もっと高みに上げる、そういうようなものを求めてくる訳ですよ」と付け加えた。「マシンにはなってほしくない。このヒューマン・インターフェイス性ていうようなものはそのままにして[……]このままでよい」とのこと。
番組の最後にモーリー・ロバートソンが、レフ・テルミン博士がレーニンに芸術家として重用されたことや、スターリン時代に辛酸を舐めた個人史的背景を付け加えたが。レーニンによる重用ということは、やはり「ロシヤ・アヴァンギャルド」の文脈で考えていいのだろうか。キリスト教から科学的社会主義への移行期の電子楽器として未来派的に評価されたと思われるテルミンが、現代のテルミニスト竹内によって、むしろウィリアム・モリス的な関心で近代批判的に再定義されているところが非常に興味深かった。フューチャリズムとレトロ・フューチャリズムという感じだろうか。
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