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伊集院光 日曜日の秘密基地(TBSラジオ、2007年11月25日(日)13:00-17:00)

○「伊集院光 日曜日の秘密基地」(TBSラジオ、2007年11月25日(日)13:00-17:00)

端的に言って、私は勝谷誠彦はあまり好きではない。

理由は明示できるものもぼんやりしたものも含めていくつかあるが、ひとつだけ言うと、私はアウト・ローぶる秀才を信用していないのだ。アウト・ローになることはおろか、アウト・ローぶる勇気すらない自分の臆病さからくる単なる妬みだと思う。

ただ、今週の「秘密基地VIPルーム」での勝谷の発言のいくつかには共感できるところがあった。

まず、ラジオ聴きとして、次の言葉には恥ずかしながら正直言って胸が少し熱くなった:

例えば今日もね、小林信彦先生、コレ聴いてらっしゃるんじゃないかと思うけどね、作家の方とか、それからコメンテーターの方とか、いわゆる、その、自分で教養や知識をもっていて世の中に発信する人たちは意外とラジオを聴いてる。それから、働いてる人が聴いてる。これは大きい。あの、ネットはなかなか「ながら」じゃ見れないですよ。けど、ラジオは——「ながら」って言ったら失礼だけども——何か労働をしながらずっと聴いてて下さっている方がたがいて、その人たちっていうのが本当に今の日本を、ていうか我われを支えてくれている——僕は「良民」「常民」っていってんだけど——額に汗をして税金を払ってる人たちが聴いてるんですよ。それが、ラジオってのはね素晴らしい。今この瞬間にも、運転をしながらとか、あるいは工場の中でいろんな労働、物を作りながら聴いて下さってる方がいるってのはね、だから僕はもう、これは数字じゃない人たちが支えてくれてると思ってるんです、ラジオは。

おそらく勝谷とは思想的に相容れないであろう斎藤貴男が喜びそうな言葉だ(とでも言って照れ隠ししておくか)。

次に、コーナー終盤で勝谷が語った言葉は、私が普段から夢想していた世の中のかたちを巧く表現していて、嬉しいやら悲しいやらである:

性善説じゃないとこういう仕事っていうか、やっぱ人生いきていけないわけで、先ほど言った大阪の「ムーブ」っていう番組でそういう[親会社の新聞社から来た役員による制作サイドへの]圧力あった時に、コメンテーター22人が、芸能レポーターまで含めて22人がみんな連判状出したみたいに、この世界捨てもんじゃないぞ、と。もうそれで、僕は長期的には人類全体が、やっぱり歴史の上ではそういう方向に、正しいと思う方向に、それから、良民・常民、額に汗をして真っ当に考えて——多少はちょっとズルもするけれども——そういう人たちが幸せに暮らす方向に僕たちは向かってるんだと思わないと生きていけないじゃないですか。

「絶望から出発しよう」などと、大した絶望も知らない秀才から言われるよりは、ずっと腑に落ちる思想だ。サンボマスターの山口隆は、ある対談でこう言った:

それは90年代は絶望とか言っても大丈夫だったと思うけど、玄関の前にそれが来ちゃった時にそういうわけじゃいかねえだろって思うわけです。平野さん[平野 悠:LOFT席亭]は丘の向こうに絶望があったわけ。俺等は玄関に来ちゃってるんだもん。デリヘルみたく。チェンジとも言えないよね(笑)。

| ROOF TOP 2006 APRIL | サンボマスターと平野悠対談の全てをロックンロールと呼べ!|

また、山口の「後ろ向きに生きたら死んじゃうんだもん」という言葉からは、絶望から間合いを詰められてしまっているリアルな感覚が伝わってくる。絶望を梃子にして「絶望から出発する」どころか、絶望を語った途端その絶望が自分の足元を掘り崩し、絶望してただ果てるだけかもしれないというリアリティーが感じられる。

確かに下手な希望をもつことは、有機溶剤に首まで浸かって生きるようなものかもしれない——「希望」の臭気でトリップしながら骨まで溶けて、気づかぬうちに死んでしまうかもしれない。このことにも気づいてしまっているのだ。

だから一応私は、「希望なんかあるものか」とスかした顔を取り繕って生きることにしている。

ともあれ、勝谷は私を夢見心地にさせておいて、以下のように続けた:

だからどこの国でも兵士たちは戦場に行くんです。そういうことの、自分たちの国や人類がそっちの方向に向かってると思うから弾の前に立てるわけで、自分の家族や子供たちや自分の国民を守ろうと思って弾の下をくぐれるし、戦場に体をさらせるわけです。

「地獄への道は善意の敷石で鋪装されている」というが、性善説と戦争が斯くもた易く短絡すると、やはり私は醒めてしまう。「国や人類」と「自分の家族や子供たち」「自分の国民」を断裂なくツルリとつなげる論法にも違和感を感じる(勝谷がさんざんコケにしていた『美しい国へ』とまるで同じじゃないか?)。

違和感を感じつつ、世の中捨てたもんじゃないと私も思いたい。

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